研究と競技を両立するための3つの鉄則
学部を卒業するとき、「大学院へ進学しても競技を続けます」と宣言する人は少なからずいる。
しかし、実際にはその多くが卒業研究という「洗礼」を受けて疲弊し、大学院へ進学した後も結局忙しいことに変わりはないため、そのまま競技をやめてしまう。
確かに、院生の忙しさは学部生時代のそれとは明らかに異なる。競技を続けることは、院生になる前に思っていた以上に難しいものであることが多い。
だから、研究しながら自己ベストも更新し続けているのなら、それだけで立派な両立だと思う。東大・GMOの近藤選手や九州大の古川選手のように、院生でありながら高いレベルで活躍している人はいるけれども。
僕は、「院でも競技を続けたい」という人には是非とも競技を続けてほしい。
そして、研究で忙しい中でも、「やっぱり陸上競技は楽しい!続けてきてよかった!」と思ってくれる人が一人でも増えてくれると、そんな嬉しいことはない。
そんな気持ちで、今回は、
- 今は学部生だが、院でも陸上を続けたい人
- 院生となったが、思うように競技に時間を割けない人
- 競技を続けたいが、研究でもそれなりに成果を出したい人
に向けて、
「研究を要領よく進めていく方法」
について書いてみた。
僕の経験論が中心になるが、途中で動画や書籍などを引用して少しでもわかりやすくなるように心がけた。
一つでも役に立つことがあったら、ぜひ自分の研究生活に取り入れてほしい。
はじめに:記事を書いている人について
僕と面識がない人へ向けて、少しでも説得力を上げるために、僕自身の実績について書いておく。自慢みたいで嫌だけど。
研究(学部4年10月~)
専門:物性物理学
博士課程1年生、学振特別研究員(DC1)
学会発表 → 英語口頭講演3件(国内2件、国際1件)、日本語口頭講演1件(国内)
論文 → 筆頭著者1件、第三著者1件(いずれも査読付き英語論文、インパクトファクターは3前後)、現在執筆中3件(すべて査読付き英語論文、筆頭著者)
受賞 → 学会4件(講演賞3件、論文賞1件)
その他 → プレスリリース、新聞報道(Web、紙面)
競技(高1~)
学部ベスト 15'08", 31'21"(いずれもB4時)
M1ベスト 15'08", 31'19"(5000は0.5秒、10000は2秒更新)
M2ベスト 14'55", 31'13"(5000は12.5秒、10000は6秒更新)
研究単体、競技単体で見れば、僕より実績がある院生はわんさかいる(NatureやScienceの姉妹紙で筆頭著者論文を持っている同期、院生なのにプロランナーの後輩など)。
けれども、研究と競技の掛け算で競う種目があったら、結構いい線いっている自信がある(そんな種目ないけど)。
研究を要領よく進めるとはどういうことか
まず、前提を確認しておく。ここがずれてしまっていると、ここからの話もうまく伝わらなくなってしまうからだ。
ここで言う「研究を要領よく進めていく」とは、
陸上競技との両立を図るために、
競技に割く時間を確保した上で、
研究に使える限られた時間を最大限に活用し、
自分が望むレベルの成果を出す
というものである。
どれくらいの成果を望むか
研究において、各個人が望む「成果のレベル」は異なる。
修士号を取ることが目的なのであれば、修士論文審査に通るだけの成果があればいい(そして通常、よっぽどのことがなければ修士号は取れる)。修士卒で就職する人はこれに当たる。
学会発表や論文投稿をしたいのであれば、それに見合う成果が必要だ。博士へ進学する予定がある人は、学振特別研究員として採用されるのに足る成果があった方がいい。
NatureやScienceへ自分の論文を載せるのが目標であれば、尋常ならざるコミットと卓越した能力、研究室の大いなるバックアップが必要となる。そしてその場合、普通は競技など他の物事との両立は諦めるべきかもしれない。
したがって、ここでは、「修士号取得」もしくは「学振特別研究員採用」のいずれかを目指す人が、競技と両立しながらその目標を達成するためにどうすればいいか、という観点で話を進める。
(厳密には、論文や学会発表の成果があれば学振特別研究員に必ず採用されるわけではない。書類の巧拙に加え、周囲のレベル、時の運にも左右される。しかし、これらの成果が採用のためにプラスに作用するのは確実なので、ひとまずここを目標地点にしている)
要領よく進めるのに必要なことは何か
上記のような目標を達成するために使える時間は限られている。
まして、競技と両立しようとするならなおさらだ。
競技で結果を出す(≒自己ベストを更新する)ためにはそれなりの時間とエネルギーが必要となる。練習時間の確保はもちろん、睡眠は削れないし、入浴やストレッチ、マッサージといったケアの時間もおろそかにはできない。
研究が忙しくなると、練習を減らすか、睡眠を削るかして競技の方の時間を削ってしまいがちである。これでは両立は心もとない。
両立のためには、競技に使う時間をあらかじめ決めておき、どんなに忙しくなってもその時間は削らない方がいい。その代わり、研究の生産性を上げることを考えよう。
研究での生産性を上げるとはどういうことか
ここで言う生産性の定義は以下の式で表される。
生産性 = (得られた成果)/(投入した時間)
そして、「生産性を上げる」とは、
- 同じ時間で得られる成果を大きくする
- 同じ成果を得るために必要な時間を減らす
の二通りがある。
基本的には、「修士号獲得」「学振特別研究員採用」のような成果は何が何でも手に入れたいものだと思う。得るべき成果をここより下げるわけにはいかない。
一方で、それより大きな成果を得ることがどれくらいの価値となるのかは、人によって異なる。論文を何本も出せたらそれはそれで嬉しいのかもしれないが、企業へ就職する(アカデミアに残らない)人にとってはそこまで重要な成果にはならないだろう。
したがって、ここでは成果を大きくすることを目的としない。以降、「生産性を上げる」とは、「成果を得るために投入する時間を少なく済ませる」と同義であるとしよう。
生産性の概念に不慣れな人は、「自分の時間を取り戻そう―ゆとりも成功も手に入れられるたった一つの考え方」(ちきりん著、ダイヤモンド社)を一読するといいと思う。
研究での生産性を上げるための三つの鉄則
さて、いよいよ本題に入る。
僕が思う「研究を生産性を上げるために守るべき三つの鉄則」を紹介する。
それぞれの項目について、1記事ずつ作成してあるので、興味のあるものから読んでもらえると嬉しい。
【その1】自分の研究のロードマップを作る
研究を効率良く進めるにあたっては、「自分の研究の主導権を自分で握る」必要がある。
そしてそのために必要なのが、「自分の研究のロードマップを作る」というものだ。
【その2】論文は必要に迫られてから読む
研究の中で大きな割合を占める「論文を読む」という時間。これをいかに最適化するかによって、研究に必要な時間をうまくコントロールできるようになる。
論文を「必要に迫られてから一気に読む」こと、そして「必要なところだけ読む」ことによって、そのような最適化が可能となる。
【その3】タスクは可能な限り前倒しして終わらせる
院生には「極めて忙しい時期」が存在する。それは、学会の直前や、学位論文提出の直前などの「締め切りに追われる時期」である。
長期的視野を持ち、なるべく早く取り掛かるようにすれば、忙しさを分散できるようになる。「先延ばし症候群」から脱するためには、とにかく着手を早くすること、できれば締め切りより遥かに前の時期にどんどん終わらせることを習慣化することが肝要だ。