走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

東大を出ても必ずしも研究者として成功するとは限らない理由

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もくじ 

 

進路どうしよう問題

6月になり、後輩たちが就活終了宣言するのを聞くようになりました。

こうしてまた後輩が次々と社会人になっていく現実と向き合いつつ、ちゃんと博士号を取れるだろうかなんて少し自分の身を案じたりする今日この頃です。

先日、東大の某研究所が主催する博士人材向けのワークショップへ参加し、計算科学関連のテーマでのインターンシップへ応募する準備をしております。

一方で、これまで全く考えていなかったアカデミアへのキャリアも少しずつ考えるようになりました。

きっかけはアメリカの大学院で博士学生としてヨーロッパで研究している同期の話を聞いたこと、研究室の先輩がスペインでポスドク研究員になったことです。

海外ポスドクですが、まだ情報収集を始めたくらいでちゃんと吟味したわけではありません。

しかし、ずっと日本で暮らしてきた自分にとって、若いうちに海外で働く、生活する、海外で日本人でない人と交友関係を得るといった経験ができる選択肢は魅力的なものに感じます。

ポスドク助成金を得る(もしくは雇われる)ため、そして将来的にアカデミアでポストを得るためには、当然ながら人並み以上の業績が求められます。

恥ずかしい話、博士での研究はそこまでうまくいっているとはいえないので、まだポスドクになろうと決心できるだけの状況ではないです。

 

博士での研究がうまくいっていない理由

今の自分に決定的に足りないのは課題発見能力だと思っています。

一般に、研究室ではPI(研究室を運営するボスのこと。教授や准教授である場合が多い)の出す方針に従いつつ、学生は与えられた研究テーマに取り組みます。

博士課程学生は、修士までで培った知識や技術、経験を武器に、ある程度自力で課題を見つけ、それを解決していくことが求められます

。もちろん、PIはじめスタッフのサポートを受けることはできますが、究極的には自分の研究には自分で責任を取る意識が不可欠です。

修士時代は、M1に与えられたテーマが終わって以降、PIから自由に研究してよいと言われていました(悪く言えばあまり指導してもらえない状況でした)。

幸運なことに、自力で見つけたテーマでいくつか新たに論文化できるような成果を出せて、複数の賞をいただくこともできました。

ところが、博士進学後、なかなか研究がうまく進まなくなりました。

理由は簡単で、研究テーマがうまく見つけられなくなってしまったからです。

 

既存のテーマの焼き直しは得意だけれど…

修士まででうまくいってきたテーマは、先輩たちが築き上げてきた研究成果の上に成り立ったものでした。

先輩たちの仕事の続きを一段階勧めたり、既存の手法を少しだけ変えて新たな手法を作り、それまでになかった形での特性制御をする、などです。

既にあるものから一歩先に進む、いわば「既存のテーマの焼き直し」はそれなりに得意だということがわかりました。

一方で、(一見すると)何もないところからまったく新しい物事を見つけるといった類の研究は、これまでうまくいった経験がありません。

博士に入ってから一度、「面白い結果が出た」ということがあったときも、結局は先行研究の焼き直しになっていることがわかりました。

天才を殺す凡人」(北野唯我)に出てくる3タイプで言えば、自分は「秀才」かもしれないけれど「天才」ではない、ということになります。

nikkeibook.nikkeibp.co.jp

 

ペーパーテストで身につかない能力

自分のように、「秀才」かもしれないけど「天才」ではないタイプは、東大には多くいると考えています。

もちろん、東大が日本一の大学であり、入試を突破してきた東大生は誰もが優秀であることは確かです。

研究室や部活で他の学生と話しているときは、お互い東大生であることを意識して話すことはありません。

ときどき、みんな東大の入試を乗り越えているめちゃくちゃ優秀な人たちなんだよな、とふいに思い返すことがあり、不思議な気持ちになります。

しかし、優秀なら必ず、世間一般で言う「成功」をつかみ取れるのでしょうか。

東大を卒業した人が全員、大学教授になったり、ビジネスで大成したりするわけではありません。

その事実は、ペーパーテストの能力だけで成功できるわけではないことを雄弁に語っています。

運、人脈、コミュ力、行動力、体力など、様々な要素が成功には不可欠です。

しかし、ここで取り上げたいのは、

「一見、東大生なら誰でも持っているように見えて、実は持っていない人が多い」能力である、

課題発見能力です。

  

二つの能力

問題解決能力=与えられた問題を理解し、その解決方法を既存の知識や技術を元に考案する能力

課題発見能力=雑多に情報が存在する中で、重要度の高い問題を自分で見つけ出す(あるいは作り出す)能力

課題発見能力は、一見すると問題解決能力とそっくりな文字面をしています。

東大の難しい入試問題を解くことができた東大生は、高い課題発見能力も有しているのではないかと錯覚しやすいかもしれません。

しかし、他の大学と比べ高い知識運用能力や問題解決能力を必要とする東大のペーパーテストであっても、課題発見能力を測ることにはつながりません。

何故なら、従来の入試システムでは、出題者が与えた問題を解く以上、自分で問題を見つけることは求められていないからです。

東大も、こうしたシステムの問題点に気づいていたためか、後期試験を廃止し、「一芸採用」的な側面のある学校推薦型入試を導入しています。

www.u-tokyo.ac.jp

ホームページを見るとわかるように、東大は高校生の段階で既に高い課題発見能力を持つ学生を求めていることがわかります。

東大入試はセンター試験を多科目で受験して高得点を取る必要があり、二次試験でもある程度まんべんなく得点できることが求められます。

したがって、一芸に優れ、高い課題発見能力を持ち、実社会でも活躍が期待される人材であっても、東大に入ることができないということは珍しくないのだと思います。

そして、アメリカなど、高校生までに行った独創的活動、研究活動を高く評価する海外の大学へ、そうした「一芸突破型」の学生が流出していくことを防ぎたい、日本で活躍する人材を育てたいという意図があるのでしょう。

(もちろん、数学オリンピック物理チャレンジなどで優秀な成績を収めた人が、勉強もできて普通に東大に入ることもよくあるので、必ずしも東大生≠天才というわけではないです)

 

研究者に課題発見能力が求められる理由

課題発見能力は、研究やビジネスの立ち上げには非常に重要となります。

研究で言えば、PIとなり、自分の研究室を運営するようになった研究者は、そこから革新的な研究成果を見つけられるような、あるいは研究資金を獲得できるような研究テーマを考え出すことが求められます。

ビジネスの立ち上げでは、日常に潜む「こういうところ不便だよね」というような問題を見つけ出す必要があります(もちろん、そのソリューションも同時に提案できる必要があります)。

その意味では、無事PIというポストを得ることができた研究者に求められる能力は、スタートアップ企業を成功させるような能力に似ています。

(だからこそ、研究室を立ち上げたあとに起業するPIも珍しくないのでしょう)

 

課題発見能力がないから活躍できないというわけではない

ここまで読んでくださった方で、

「あれ、自分はまさに課題発見能力がないタイプかもしれない」

と思った方もいるかもしれません。

しかし、課題発見能力がないから社会で活躍できないということはありません。

仕組みが確立している大企業や大組織であれば、そこで働く人には課題を見つける以前に、与えられたことを効率良く高いクオリティでこなしていくことの方が求められます。

その意味では、東大生のような「秀才」タイプは大いに活躍できると考えられますし、そうしたところでは課題発見能力がなくても問題なく働けると思います(実際に働いたことがないので、本当のことは知りません…)。

 

結論。

研究者として大成するためには、高い課題発見能力が必要です。

東大入試を突破できたからと言って、必ずしもその能力があるかはわかりません。

 

進路どうしよう

東大生の典型的な進路は、

のいずれかであることが多いように思います。

所属する組織の人数が少なく、組織に対する自分の影響力が大きいほど、課題発見能力も求められます。

アカデミアへ進む人は多いですが、それはスタートアップの立ち上げや事業を軌道に乗せるのと同じくらい高い課題発見能力が必要です。

初めからアカデミアに進むことしか考えていない東大生(または東大卒生)は、たいてい高校までにとてつもない業績を挙げていたり、尋常でない学問への情熱があるので、アカデミア向きだと思いますが、自分はそういうタイプではありません。

修士で運よくそこそこの業績を挙げられただけで、果たしてアカデミアへ飛び込んでいいのか…

(そもそも、それに見合う成果を博士課程で挙げられるか…)

実は大企業向きの典型的な東大生なんじゃないか…

そんなことを悩んで生活しています。

 

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いつもお世話になっております

院カレがとても楽しかったので報告します

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全ての発端は、飛雄馬の以下のツイート。

 これに九州大の古川くんが意欲を示したらしく、「大会がないなら自分で作ればよくない?」という話に(飛雄馬談)。

 

緊急事態宣言がなかなか解除されない社会情勢のなかではあったけれど、無事に開催される運びとなってよかった。。。

こういう状況だったこともあり、気軽に参加できない方も少なからずいて、そのために棄権した方もいたとか。

次回は全国の院生が気兼ねなく参加できる社会になっていてほしい。。。

 

レースについて

www.youtube.com

当日出場者のなかでは、PBが14'04"の古川くんと14'05"の飛雄馬がずば抜けていて、この二人の一騎打ちになることは自明。

雄馬の練習日誌を読んでいるので、怪我明けとはいえ飛雄馬の走力は14'20"~30"くらいまで戻っていると予想。

さすがに勝てないとわかっていたので、目標は3位。

 

他大学にも自分と同じくPB14分台の人は少なからずいました。

彼らも先頭にはつかないはず。

第2集団についていって、どこかで一気にペースアップしてそのまま単独で逃げ切る作戦でいくことに。

 

で、結果は

 賞状をもらいました。わーい

 

追いついたときは、「もしや、ワンチャンある?」とか思いましたが笑、

さすがに甘くないですね。

 

院生になっても競技を続けるということ

走り終わってから2日経ってなお、「院カレ楽しかった」と余韻に浸りながらこの記事を書いているわけですが、

それってなんでだろう、って考えてみると、

「自分と同じように大学院でも競技に打ち込んでいる人がたくさんいて、その人達の熱意を近くで感じたから」

なのかなあ、と思います。

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博士課程のみなさまと。

一般的に、日本では経済面や就職先の少なさなど、不利な点が多い博士課程ですが、

そういう中でもこうして競技を続けている方がこれだけいて、同じレースを走れた。

なんだかそれだけで、形容しがたい仲間意識みたいなものが芽生えた気がしてます(勝手に)。

 

大学院でも競技を続けることは、一般的には容易なことではありません。

研究室の体制によって異なりますが、一日の平均労働時間は修士課程で8時間、博士課程で10時間とも言われています。

(ソース不明、間違ってたらごめんなさい)

僕はかなり例外的な研究室に所属できているおかげで、研究にそれほど多くの時間を取られることがなく、今でも競技を続けられていますが、

「学生として競技を続けたいからD進する」みたいなことは一般的ではないでしょう。

 

だから、研究職として働く準備のために修士課程で研究している人も、

研究の道を突き詰めようという意志を持ってD進した人も、

陸上競技が好きだから忙しくても研究と両立できる」

という言葉だけでは片づけられないときもあると思います。

 

そんなときには、一緒に練習し、一緒に院でもバリバリ競技を続けている仲間や先輩の存在が大きな支えになることもあるでしょう。

運営委員の一人である、京都大学法科大学院の原田くんが、「新たな世界を開いてくれた先輩のおかげで、今でも競技を続けられている」ということを院カレブログに書いていました。

blog.livedoor.jp

まさにそういう「前例」が、ときに院生ランナーの心の支えになっているんじゃないか、と。

 

どんなに陸上競技が好きでも、

院でも競技を続ける人が数多くいる環境にいない場合や、

箱根駅伝予選会・地方インカレといった、「学生だからこそ出られる」大会に出るチャンスが少ない人にとっては、

「院生になってまで競技を続ける価値があるのか?」と迷いをいだく場面は少なからず出てくるでしょう。

 

そんなとき、

「院カレで競い合った仲間たちも、きっと今ごろ頑張っているに違いない」

と思えるようになっただけでも、この大会には大きな意義があるんじゃないかな、と感じました。

運営など一切携わっていないのに偉そうですみません。

 

最後になりましたが、運営委員会のみなさま、同じレースをともにした院生(&学部生・OB)のみなさま、どうもありがとうございました!!

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(写真・動画はすべて

twitter.com

から転載いたしました。不都合などありましたらコメントしていただけると幸いです)

骨盤は前傾していればいいってもんじゃない

先日、とある後輩から「脚の慢性疲労が抜けない」という相談を受けた。

走りを見る限り、動きに硬さは感じないのだけれど、練習をするとすぐにお尻やハムストリングが疲れて力が入らなくなってしまうのだという。

さらには、同じ出力で走っているつもりでも、練習のタイムが過去のものと比べて低い水準にとどまってしまっているらしい。

 

疲労が抜けない原因はいろいろ考えられる。睡眠や栄養が足りていない、オーバートレーニング、日常生活でのストレスなどなど…

けれど、あえて今回は、身体面からその原因を考えてみたい。 

 

後輩の身体の状態を少し調べてみると、

立位(二本足で立っている状態)で腰がかなり反っている、いわゆる「反り腰」の状態になっていることがわかった。

おそらく、後輩の「お尻やハムの疲労が取れない」という問題は、

反り腰によって腸腰筋が硬くなって機能しなくなった

ことも関係しているのではないかと考えた。

 

以下、このことについて具体的に説明してみる。

もし、自分にも当てはまりそうな話があれば、参考にしてもらえるとうれしい。 

 

もくじ

 

反り腰=過度な骨盤前傾

反り腰とは、本来よりも腰が大きく反っている状態のことを指す。

このとき、骨盤は大きく前傾している。

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反り腰の特徴(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」56ページより引用)

立位では、背中をそらす(体幹を進展させる)か、股関節を屈曲させる(脚の付け根を閉じる)ことで前傾するようになっている。

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体幹部伸展による骨盤前傾(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」75ページより引用)

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股関節屈曲による骨盤前傾(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」91ページより引用)


したがって、反り腰になっている人は、

  • 肋骨を前へ突き出している(胸を張り過ぎている)
  • 背中や腰が常に力んでいる

という状態にある。

これにより、腰に負担がかかりやすく、腰痛につながることも多い。

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反り腰になっている人の姿勢(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」86ページより引用)

反り腰の何が問題なのか

反り腰の一番の問題点は、

骨盤が動きにくくなり、その結果、

股関節の可動域が制限されてしまう

ことだ。

どういうことか、順を追って説明する。

 

まず、大前提として、

効率のよいランニング動作には、股関節伸展が重要な役割を果たしており、

大臀筋(お尻の筋肉)やハムストリングといった股関節伸展筋が十分に機能していることが不可欠である

ということを認めてほしい。

(理由は割愛)

 

次に知っておいてほしいこととして、

股関節を伸展させるには、骨盤を前傾させる必要がある

ということである。

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股関節伸展は骨盤前傾を伴う(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」107ページより引用)

これはどうしてかというと、

  • 大臀筋は骨盤と大腿骨(太ももの骨)とを結ぶ筋肉
  • ハムストリングは股関節をまたいで骨盤と脛骨(すねの骨)とを結ぶ筋肉

であり、これらの筋肉が縮むことは、

骨盤と脚の骨との距離を縮める

ことにほかならないからだ(上図参照)。

 

さて、反り腰とは、「立っているだけで骨盤が大きく前傾している状態」であった。

この状態からさらに骨盤を前傾させようとしても、可動域には限りがある。

本来は股関節伸展の可動域を確保するために骨盤の可動域をとっておきたいのに、骨盤の動きを自ら制限してしまっているのだ。

 

腸腰筋が固まってしまう 

反り腰のもう一つの問題点は、

腸腰筋が硬くなって機能しなくなる

ことだ。

 

その結果、

  • 股関節の可動域が狭まる(ストライドが小さくなる)
  • 股関節伸展筋のパワーが下がる
  • 股関節伸展筋が疲れやすくなる

という問題が生じる。

 

腸腰筋は、背骨と大腿骨を結ぶ大腰筋、骨盤と大腿骨を結ぶ腸骨筋の総称である。

いずれも股関節を屈曲させる作用がある。

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腸腰筋の起始と停止(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」89ページより引用)

反り腰になると、常に股関節が屈曲している状態になる。

このとき、腸腰筋は本来の長さより短くなっている(短縮している)。

この状態が当たり前になると、腸腰筋はどんどん硬くなってしまう。

すると、股関節の伸展方向への可動域が狭くなってしまう。

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骨盤前傾で腸腰筋は縮む(土屋真人「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」107ページより引用)

 実際には、

腸腰筋が固いから反り腰になる」

のか、

「反り腰だから腸腰筋が固くなる」

なのかはわからない。鶏と卵。

腸腰筋が股関節伸展筋の力を引き出す

腸腰筋がランニングに重要であることは、なんとなくご存知の方が多いと思う。

改めて言うが、腸腰筋の作用は、股関節の屈曲だ。

つまり、腸腰筋は、股関節を伸展させる大臀筋やハムストリングと拮抗する筋肉である。

 

そして、筋肉のパワーを最大限に引き出すためには、この拮抗関係というのが非常に重要となる。

具体的には、

主働筋が作用するとき、拮抗筋がゆるんでいる

という状態をつくることで、主働筋の力を最大限引き出せる。

教科書的には、主働筋が作用するときは拮抗筋は必ずゆるむ。

しかし、現実はそうなっておらず、主働筋が作用しているときに拮抗筋も収縮するケースが少なからずある。

初動負荷理論創始者である小山裕史先生の言う「共縮」という状態だ。

 

これは、いわばアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもので、主働筋の力は拮抗筋に打ち消されてしまう。

さらには、動きの中で筋肉がリラックスすることが少ないため、リラックスできている人と比べて、早く疲労してしまうという問題もある。

(↓詳しく知りたい人向け)

blog.livedoor.jp

 

反り腰を直すための4つの方法

さて、そんな反り腰をどうやって直せばいいのか、という実用面の話。

大きく分けて、以下の4つが有効であると考えている。

 

①日常生活の中で腰に力が入っていないかこまめに点検する

腹式呼吸の練習をする

腸腰筋のストレッチ

④脊柱起立筋のストレッチ

 

①日常生活の中で腰に力が入っていないかこまめに点検する

地味だけれど、結構大事だと思ったので最初に持ってきた。

反り腰の人は、普段の生活から常に腰に力を入れていることが多いと思う(僕の経験談)。

意識的に腰椎周りの力を抜くようにして、普段の動作がどう変わるか観察してみる。

自然と中臀筋でバランスを取ったり、脚が前へ出やすくなればいい兆候だ。

特に、普段リュックサックを背負って出歩く習慣がある人は、リュックの紐を調節してリュックと背中の密着度を上げるようにした方がいい(夏は厳しいかも)。 

 

腹式呼吸の練習をする

床に仰向けになり、へその下あたりをリラックスさせる。

このとき、おなかだけでなく腰もしっかり脱力する。

その状態でへその下をリラックスさせながら腹式呼吸をする。

走りながら、へその下がゆるむようになったら少しずつ骨盤の可動性も上がってくる。

 

腸腰筋のストレッチ

為末大さんによる以下の動画の前半部分で説明されている。

www.youtube.com

重要なのは、膝をしっかりロックすること。

硬い路面の上で膝が痛くて股関節にうまく体重を乗せられない場合、下にヨガマットなどを敷くことを勧める。

 

④脊柱起立筋のストレッチ

反り腰は脊柱起立筋の慢性的な収縮によっても生じる。

腸腰筋同様、縮みっぱなしで固まっている可能性が高い。

以下の動画で紹介されているストレッチをやってみよう。

www.youtube.com

ポイントは、腰の力を脱力させ、意識的に骨盤を後傾させた状態でストレッチすることだ。

上手くストレッチできていると、痛気持ちいい感覚が出る。

 

最後に:「骨盤前傾神話」の正体

世界トップランナーが速く走れるのは骨盤が前傾しているからだ

陸上競技をやっている人なら一度は耳にしたことがある話だと思う。

でも、これって本当なんだろうか

今回の記事で説明してきたことを踏まえると、

骨盤が前傾するのはあくまで動きの中の話であって、

立っているだけでも骨盤が前傾しているというわけではない

というのが僕の見解だ。

ただ、トップランナーは股関節の可動域が広く、股関節伸展時には骨盤も大きく前傾することも事実だ。

つまり、

股関節伸展している方の脚だけ骨盤も前傾し、

股関節屈曲↔伸展を繰り返す中で、骨盤も

まっすぐ↔前傾

という動きを繰り返しているのだと思う。

(骨盤は本来左右で分離しているのでこのようなことが可能になる。トップランナーほど左右がばらばらに動かせる)

 

いわば、骨盤前傾神話の正体は、

動きの中で骨盤を大きく前傾させることができるから速く走れる

(普段は骨盤が前傾しているわけではないけれど、走るときは自在に骨盤を前傾させられる)

というものではないだろうか。。。

走っていないときでもつねに骨盤が前傾している、というわけではないはず。

 

 

参考文献

土屋真人、「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」(秀和システム

みやすのんき、「誰も教えてくれなかったマラソンフォームの基本」(カンゼン)

アルファフライが万人受けしない理由を考えた

もくじ

 

ラソンで好記録を生み出し続けるアルファフライ

大阪国際女子マラソンは、東京五輪代表の一山麻緒選手が2時間11分11秒の大会新記録で優勝した。

www3.nhk.or.jp

 

一山選手と言えば、ナイキの厚底シューズ「アルファフライ」を履いてマラソンを走ることでも知られる。

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ナイキが誇る厚底シューズ「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」

このシューズ、2019年にマラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ選手が履いてマラソン2時間切り(非公認)を達成したこともあり、センセーショナルに市場へ登場した。

昨年の東京マラソンでの大迫傑選手の日本新記録も、今回の一山選手による大会新記録も、このシューズによって樹立された。

 

ヴェイパーフライと違って万人受けしない

けれど、ヴェイパーフライが浸透したときと比較して、

このシューズに関していろいろ騒がれているようには見えない。

その理由の一つに、

履きこなすことが難しい

ということがあげられる。

 

実際に、今年の箱根駅伝では、アルファフライとヴェイパーフライの着用率はちょうど半々だったらしく、(以下記事参照)

news.yahoo.co.jp

学生トップレベルのランナーさえも、必ずしもアルファフライを好んで履いているわけではないという事実が、このシューズを履きこなすことの難しさを物語っている。

(二年連続で区間新の東京国際大学ヴィンセント選手もヴェイパーフライだった)

 

 万人受けしない理由

では、具体的にどのような理由で、アルファフライは履きこなすのが難しいのだろうか。

以下の記事では、

スイートスポット(最適箇所)が、ヴェイパーフライでは広く、アルファフライでは狭い

という説明がされている。

number.bunshun.jp

 

スイートスポットとは、

最も効率よくシューズから反発をもらえるような接地位置

のことであると考えられる。

 

スイートスポットを比較する

アルファフライとヴェイパーフライについて、シューズの外観と上の記事の内容から、スイートスポットの位置を推定してみよう。

(ちなみに、筆者はアルファフライを履いたことがありません)

 

横から見た写真。

目につく両者の違いは、何といっても前足部である。

アルファフライには「エア」と呼ばれる空気層があるが、ヴェイパーフライにはそれがない。

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横から見た写真(NIKE.comより)

これにより、アルファフライには中足部の手前に大きな段差がある。

したがって、必然的に「エア」の入った前足部での接地(フォアフット接地)が良いと考えられる。

一方、ヴェイパーフライの前半分は比較的フラットであるため、中足部側での接地(いわゆるミッドフット接地)にも対応しているように思われる。

もちろん、フォアフット接地であっても十分にカーボンプレートの恩恵を得られるようになっている。

 

次に、シューズの裏を見てみよう。

f:id:xmt6umtk:20210131173424j:plainやや見にくいかもしれないが、アルファフライの前足部の真ん中には空洞がある。

空洞の位置では接地できないので、必然的に接地可能位置は狭くなる

また、先述した通り、「エア」層が終わるところに段差があり、この付近での接地も難しい。

ヴェイパーフライは黒塗りされた前足部が平らで、広い範囲での接地が可能だ。

 

したがって、スイートスポットはこんな感じになりそうだ。

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(大迫選手は「いつもは外で接地するけど、アルファフライのときはやや真ん中寄りに着く意識で走る」と述べているが、どの程度真ん中なのかは全くわからない)

 

学生トップランナーであってもミッドフット接地の選手はかなりの数いると思われる。

世界トップが軒並みフォアフット接地とはいえ、フォアフット接地でのフルマラソンハーフマラソン完走には相当な脚力を要する。

安定してピッチを刻むミッドフット接地の方が疲れにくいということもあるので、この辺は一長一短だ。

 

そもそも論 : ヴェイパーフライが万人受けした理由は?

むしろ、「どうしてヴェイパーフライは万人受けしたのか?」という疑問を持つべきかもしれない。

これに対する僕なりの答えは、

従来のセパレートソールとフラットソールの良いところを足し合わせたようなシューズだったから

というものである。

 

どういうことか、順に説明する。

 

一般に、シューズのアウトソール(靴底のうち地面と直接触れる部分)には、

セパレートソールフラットソール

の二種類が存在する。

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セパレートソールとフラットソール

フラットソールがその名の通り真っ平なのに対し、

セパレートソールはソールが前後に分かれていて、中央部分はソールの代わりにシャンクと呼ばれる樹脂が入っている。

両者の特徴は、

  • セパレートソールはフォアフット接地でシャンクによる反発を生かせれば速く走れる
  • フラットソールは反発が弱いが、フォアフット走法でなくても使いやすい

というものである。

 

フラットソールでの走り方はごくシンプルだ。

ソールが平らで柔らかいので、足裏のどこで着いてもそのまま足裏全体が地面にベッタリ着く。

そのまま、重心移動に従って、ソールがぐにゃりと曲がりながら体を前へ押し出していく。

 

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フラットソールでの走り方

②のフェーズで足裏全体で地面を捉えるので、安定感に優れる反面、

接地時間が長くなり、地面からの反発をあまりもらえないという欠点もある。

 

一方、フォアフット接地の人は、以下のようなプロセスでセパレートソールの強みを生かせる。

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セパレートソールを生かした走り方

①前足部接地。シャンクが入っていてソールが曲がらないので、前足部に引きずられてかかとが素早く降りる。

②かかとが地面に一瞬接触してからすぐに離れる

③かかとが離れ出すと、今度はかかとに引きずられて前足部が地面を押し出す

 

このような走りができると、

  • シャンクによって接地時間が短くなる
  • シャンクの反発力で地面を強く押し出せる

という利点がある。

 

一方、ミッドフット接地の場合、地面とソールが平行なのでシャンクはまったく生かされないし、

かかと接地に至っては前足部がシャンクで加速されて地面を太鼓のように叩く羽目になってしまう。

(もし接地音が気になるようだったらかかと接地を疑ってみるのもいい)

 

シャンクは中足部にしか入れられないため、フォアフット接地が不可欠という問題があった。

これを解決したのが、ナイキ厚底に採用されている

フルレングス(足裏全体を覆う長さ)のカーボンプレート

である。

カーボンプレートは炭素でできていて、この上なく硬い

この硬い板を靴の内部に入れることで、

どこで接地してもそれなりに反発する

ようになった。

 

つまり、

反発が強いというセパレートソールの利点

と、

どこで接地してもそれなりに走れるというフラットソールの利点

の両方が盛り込まれているのだ。

 

それでいて軽くてクッション性も高い。速く走れるに決まっている。。。

 

実は重要かもしれない機能

ちなみに、「ヴェイパーフライだってスイートスポットは前足部寄りじゃないか!」という反論があるかもしれない。

もう一度ヴェイパーフライの写真を見てみよう。

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アウトソールが完全には平らではなく、真ん中より少し後ろに隙間があることがお分かりだろうか。

すると、普段はミッドフット接地の人も、

足が地面に降りてくるときには、黒塗りされた前足部が先に地面に着くようになっている。

いわば半強制的にスイートスポットに誘導されるのだ。甘い誘惑

 

個人的には、意外とこの「スイートスポット誘導」機能が重要な役割を果たしているのではないか、と考えている。

 

各メーカーから発売され始めた厚底シューズも、

軽さ・カーボンプレート・クッション性

の三点セットを売りにしているが、どうも真っ平らなシューズが多い。

  

そうなると、まだまだナイキ一強が続くのだろうか…?

 

↓前回記事

xmt6umtk.hatenablog.com

「ヴェイパーフライじゃないとうまく走れない問題」について考えた

あけましておめでとうございます。。。

 

今年の箱根駅伝は見ごたえがあった。

復路を最初から最後までちゃんと見たのは何年ぶりだろう。。。

箱根駅伝も「厚底」一色

さて、やはり今年も注目されたのが、選手の履いていたシューズ。

以下の記事によると、どうやら今回は9割以上の選手が、NIKEのいわゆる「厚底」シューズを履いていたらしい。まさにNIKE一強。

news.yahoo.co.jp

これだけNIKEの厚底が普及し始めたのは、去年か一昨年くらいから、

厚底第三世代であるヴェイパーフライNEXT%が安定して供給されるようになった

ことが大きい。

第一世代、第二世代のヴェイパーフライは供給量が少なく、一般ランナーにとって入手は容易ではなかった。

(発売日当日に開店前から並ばなければ変えないような代物だった)

ところが、NEXT%は十分に市場に供給されるようになり、多くのランナーが履くようになった。

学生駅伝界でも、厚底シューズの優位性を認めざるを得なくなったのか、ほとんどのランナーがこれを履いて走るようになった。

かつて4連覇を達成した青山学院大学も、契約メーカーであるアディダスのシューズではなく、NIKEの厚底を履いて箱根を走っている。

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NIKEが誇る厚底シューズ

さらには、設楽悠太選手のような「トラックでも厚底」が珍しくなくなり、

「むしろスパイクより記録が出る」として、トラック種目に好んで使用する選手も多くなっていた。

 

厚底との別れ

ところが、あまりに記録が出すぎるということで、このシューズを制限しようとする動きが始まった。

その結果、昨年12月より正式に、

WA規則第143条(TR5:シューズ)のルール改定がトラック種目へ全面適用となり、

厚底シューズがトラック種目で使用できなくなった。

(使用はできるが、公認記録として認められなくなった)

www.jaaf.or.jp

移行期であった11月までの期間では、まだ厚底での記録が公認となるうちに、厚底で走って自己記録を更新した選手も少なからずいた。

以下の記事では、
昨年11月に行われた学連10000記録挑戦会(厚底禁止)では自己記録更新率が低かったのに対して、

同日に行われた別の記録会では厚底使用者が次々に自己記録を更新したということである。

number.bunshun.jp

(10000挑戦会はギオンスタジアムが爆風だったとか、日差しが強かったとかの理由も大きいと思うけど。もう一つの記録会のコンディションを見ていないので何とも言えないところ)

 

そんなわけで、一旦はトラックでも従来のスパイクや薄底シューズに対して優位性を発揮した厚底シューズも、

トラックレースと別れを告げることになった。

 

厚底が忘れられないランナー

ところが、

厚底シューズであまりにも良いタイムが出るために、

従来のシューズでトラックを走っても良いタイムが出なくなってしまった

というランナーは、少なからずいるのではないかと思っている。

  

僕の周りでも、とある後輩が上記のような「厚底中毒」に陥っている。

彼は厚底と薄底で自己最高記録が30秒以上近く異なる

ハーフマラソンではない。

5000mだ。

5000mでこれだけのタイム差が出るのは単に厚底が優れているから、ということだけでは説明できない。

いや、まあ、厚底は優れているんだけど

なんというか、

彼の走りは明らかに厚底に適応しすぎてしまっているのだ。

けれど、この「厚底に適応している」とは具体的にどういう状況なのかよく説明できないので、本人もどうすればいいのかわからず途方に暮れているように見える(たぶん)。

  

そこで本記事では、彼の

ヴェイパーフライじゃないとうまく走れない問題

の原因について、僕なりに考えたことを書いてみる。

 

この問題の原因は、人によって異なるかもしれない。

だから、同じ問題を抱えていても違う原因でタイムが出ない人には役に立つかはわからない。

それでも、

少しでも多くの人がこの問題を解決し、トラックでも自己記録をどんどん伸ばしていけるようになれば、それほど嬉しいことはない。

 

極端な「厚底適応」の原因は?

前置きが長くなってしまったので、単刀直入に結論を言うと、

彼の場合、

厚底を履いても骨盤の高さが変わっていない

ことが、極端な「厚底適応」を生み出しているのではないかと考えられる。

 

以下の図は、接地時、地面についている脚について、骨盤から下を横から見た模式図である。 

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骨盤の高さが変わらないとどうなる?

厚底を履くと、ソールの厚さ分、地面から高い位置に足の裏が来る。

この状態で、もし薄底を履いたときと骨盤の高さが変わらない場合、骨盤から足首までの高さは、厚底を履いた場合の方が低くなる。

したがって、膝の屈曲が深い状態で接地することになり、接地位置も骨盤よりやや前方に来る。

薄底では、骨盤の近くに接地することになる。

 

これによって、

股関節伸展時の筋出力

に差が出る。

どういうことか、順を追って説明していこう。

 

膝屈曲の深さと股関節伸展

一般に効率の良い走りとされているのは、

①骨盤の手前(重心の真下)に接地して、

②支持脚にしっかり体重を乗せ、

③支持脚の股関節を素早く伸展させて重心を前へ移動させる

というものだ。

 

そして、股関節伸展に大きな役割を果たしているのが、

お尻の筋肉のうち最も大きい大臀筋と、

腿の裏の筋肉であるハムストリング(以下ハム)、とりわけ大腿二頭筋

である。

世界トップレベルの中長距離選手は例外なく、これらの筋肉がよく発達している。

 

そして、この二つの筋肉には大きな違いがある。それは、

大臀筋は股関節だけをまたぐ単関節筋

であるのに対し、

ハムは股関節と膝関節をまたぐ複関節筋

であるというところだ。

 

この違いは何を生むのか。それは、

ハムは膝屈曲角によっても、筋肉の出力しやすさが変わる

というところだ。

さらに言えば、

ハムは膝が曲がっている方が力が入りやすい

という特徴がある。

(試しに、膝を伸ばしたままジャンプしてほしい。ハムに力は入るだろうか?)

ところが、ランニングにおいては、

ハムに力が入りやすいからといって膝を深く屈曲させて接地させると、

  • 腰が落ち、股関節伸展で前に進む距離が短くなる(ストライドが小さくなる)
  • 接地が骨盤の前方になり、地面からの抗力がブレーキになる

というジレンマがある。

 

ヴェイパーフライを履くと、この問題の影響が抑えられる。

つまり、

  • 膝屈曲が深くても骨盤がそこまで落ちない
  • ハムにしっかり力が入りやすくなり、ブレーキの影響によるマイナスを上回る推進力が得られる

ということになる。

  

このような走り方をする人は普通、厚底を履かないと腰が落ち、効率が悪くなって疲れやすくなる。

(僕はこのパターン)

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薄底だと腰が落ちる

一方、トップ選手は、股関節の機能がきわめて高い[1]ため、

  • 膝屈曲角に関わらず使える大臀筋の筋力が高い
  • 膝屈曲が浅くてもハムが十分に出力できる

という利点がある。

これにより、効率の良い動きと、大きな股関節伸展パワーで速く走ることができる。

厚底を履いたときはその分だけ腰が高くなり、より効率よく走ることができる。

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トップランナーは膝屈曲が浅くても股関節伸展筋を使える

さて、例の後輩の場合に戻ってみよう。

彼は本来、

  • 膝屈曲が深く、前方に接地させないとうまくハムに力が入らない
  • 大臀筋をうまく使えていない

という状態なので、薄底を履くと腰が落ちるはずだ。

それなのに、薄底を履いても骨盤の位置が変わっていない[2]。

(このことは、動画を見て確認してある)

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厚底を履いても骨盤の位置が変わらない場合(再掲)

これはおそらく、厚底を履いているときと履いていないときで、走り方を変えているからではないか、と思う。

(何か意図的に変えているのか、無意識に変わっているかはわからない)

なにしろ、本来膝屈曲が深くないと股関節伸展のパワーが十分に得られないのに、

薄底では膝屈曲が浅く、股関節伸展筋がうまく機能していない。

そのため、一見効率がいいように見えても、上手くスピードに乗ることができず、レースペースで走るとすぐに疲れてしまう。

 (股関節伸展が小さくストライドが短くなった場合、スピードはピッチを上げて補うしかないからだ)

 

じゃあどうしたらいい?

もし僕が彼のような問題を抱えているなら、次のようなことに取り組むと思う。

(1) 厚底と薄底でピッチを比較する

もし僕なら、まず、ここまで書いてきた仮説が確かめるために、

厚底を履いたときとそうでないときで、ピッチが異なるか調べる

と思う。

薄底でタイムが出ないのは、ストライドが短くなりピッチが速くなって、心肺機能が追い付かなくなりペースダウンしてしまうからだと考えられる。

これを確かめる方法は、

厚底・薄底それぞれで走ったレース・スピード練習について、ピッチを比較する

ことだと思う。

ガーミンで計測されたデータなり、動画から算出するなりして、

薄底の方がピッチが速くなっている

のであれば、僕の仮説は正しい可能性がある。

(2) 厚底を履くのをやめる

対症療法的には、

「腰が落ちてもいいから走りやすい走り方で練習する」

というやり方もありかもしれない。

究極、トラックは捨ててロードに特化するのなら、厚底を履いてガンガン練習すればいいと思う。

けれど、もし僕なら、トラックでもタイムを出したいと考えるから、

一旦厚底を履くのをやめて、

厚底で過去に出したタイムを忘れて、

薄底で速く走れるための身体づくりからやり直す

と思う。

厚底といっても、ジョグに用いるシューズ(ペガサスなど)を履くのは何ら問題なくて、

むしろ距離を踏むときは、そうしたシューズを履いて走る。

そのかわり、トラックでの練習はすべて薄底でやる

(3)支持脚に体重をしっかり乗せて股関節伸展できるようにするためのトレーニングをする

そして、おそらくこれが一番難しいのだけど、

手前に接地して地面の反力をうまくもらいつつ、しっかり股関節伸展できるようになるために、

股関節周りの筋肉や骨がうまく独立して動かせる状態を作り、

その状態で練習を積んで筋力をつけていく。

ここに関しては僕のように腰が落ちるタイプも同じアプローチが必要になる。

何をどのようにやるかについては、僕のなかで理論をはっきり作れていないので、あまり書くことができない。

とりあえず、僕が最近取り組んでいることは3つ。

①「接地前に反対脚をまたぎ越す」意識で脚を回転させる

走っているときは真下についているつもりでも、動画で見ると結構前の方でついていたので、

接地足を少し後ろに置いていき、接地前に遊脚が接地側の脚を追い越すイメージで接地するようにしてみたところ、

きちんと骨盤の手前に降りてくるようになった。

この「接地前に反対脚をまたぎ越す」意識は、駅伝強豪校の豊川工業高校でも指導されているらしく、案外見当違いではないのかな、と思っている。

(「誰も教えてくれなかったマラソンフォームの基本」(みやすのんき著)の39ページ参照。この本は以下の記事などに引用しています)

blog.livedoor.jp

②股関節の可動性を高めるためのストレッチ

特に、ランニング動作と直結する片足立ちでのストレッチが有効であると考えている。

為末大さんの解説動画が非常にわかりやすいので載せておく。

www.youtube.com

注意点としては、動画でもある通り、「腰を入れる」こと。

これをするかどうかで股関節への効き方がまったく変わってしまう。

なお、動画では為末さんは前に進みながら動的ストレッチとして行っているが、慣れるまでは片足立ちでキープしたままの静的ストレッチでやった方がいいと思う。

また、片足立ちのエクササイズについては、高岡英夫さんの著書「キレッキレ股関節でパフォーマンスは上がる!」の120ページ以降に載っているものも効果的だと思い、取り組んでいる。

www.kanzen.jp

仙腸関節の矯正

これは、僕自身が過去に仙腸関節の故障をして、そのリハビリをちゃんとやらずに脚がおかしくなったのを直すために取り組んでいるのだけれど、

仙腸関節は骨盤の可動性をつかさどる重要な関節なので、きちんと機能するに越したことはない。

酒井慎太郎氏のテニスボールを用いた矯正法が有名で、僕自身もこれに取り組んでいる。

過去に別のブログで記事を書いているので、以下を参照。

blog.livedoor.jp

 

とりあえず現時点で思いつくことはこれくらい。

股関節については僕自身も課題がたくさんあるので、地道にがんばりたい。

 

------------------------------------------

[1] 「機能が高い」というのは曖昧な表現で、正確には「股関節周りの組織分化が進んでいる」というのが正しい。上記の高岡英夫氏の著書を読めば、トップレベルの選手がいかに股関節を使いこなしているかについてわかると思う。

[2] 腰が落ちるのが普通だけどそうならないのは、意識的に腰の位置を保っているからだと考えている。どうも「斜め上へ跳ぶ」意識を持って走っているようで、上手く走れる人はこの意識を持っていても問題にならないと思うけれど、彼の場合はこの意識が地面から逃げる(支持脚に体重を乗せ切らないようにする)ように作用している気がしてならない。

【箱根駅伝予選会2021】試合反省と雑感

ようやく文章を書けるくらいには回復したので、反省と思ったことを書きます。

 

結果

67'47"(15'51"-55"-53"-16'31"-3'37") PB

チーム内3位、個人384位

 

元の自己ベストが69'15"なので、1分28秒の更新。

学部1年のとき以来、71分台(たまに72分台)しか出せていなかったので、やっとハーフの沼から抜け出せた気分。

今回は全体として異常に記録が出ているけれど、昨シーズンまでの状態だったら68分台が関の山だったと思うので、走力は伸びていると考えています。

そもそも3'10"の集団なんて怖くてついていけなかったはず。

 

レースプラン

目標は68'30"。

昨シーズンに出したベストは5000が14'55"、10000が31'13"なので、Jack Daniels理論でいけば68'17"~45"くらいの走力はあると考えての目標設定。

今シーズン距離走を一度しかやっていないので、これ以上攻めるのはちょっと…という感じ。

runsmartproject.com

学部1年次にハーフのベストを出したときは16'08"-20"-33"-40"とかだった。

(立川だったので後半は公園でペースダウンした)

今回は16'00"-10"-15"-30"-3'35"くらいで走る想定。この通りだと68'20"。

同じ集団で走る予定の後輩と、「入りの5km16分フラットでいこう」とだけ話していた。

今年は出場校も多く、同じくらいの集団はできると思っていた。

(実際はできなかったので、3'10"で押し続けることになった。結果オーライだと思うけど)

 

レース展開

スタート直後、例年よりもすんなり内側へ入れた。

徐々に集団ができて、「速いな」と感じつつも1km通過3'11"、3km9'35"。このままついていくことを決意。

5km通過15'51"で腹をくくる。そこからは何も考えず集団についていくだけ。

ついていくだけとは言っても全然余裕はなかった。

後ろに集団がないので、振り落とされたら単独で一気にペースダウンしてしまうのは必至。なんとしても最後までここで粘りたいと思っていた。

同じ集団に院や学部の後輩が何人かいたのは、精神的な支えになった。

スタート直後から続く腹痛と、体幹のきつさにひたすら耐える。右広背筋が痛かった。

6周目(13km過ぎくらい)で突然脚がきつくなり、そこから15kmまでついていくも、その直後に集団がペースアップした(ように感じた)ところでついていけず。

あとは冷たい風を浴びながら単独走。ジョグくらいまで落ちているんじゃないかとも思ったけれど3'20"にとどめられていた。実質15kmで試合終了していた。

ラスト一周で59分ちょっと。67分台は堅いと感じ、「とにかく事故らず67分台にまとめればいい」とだけ考える。20kmで攣りかけたので、スパートせずゴールまで安全運転。

  

タイムが伸びた要因分析(全体編)

今回は全体的に記録が上がっていて、その理由は

  • 駐屯地周回コース
  • 絶好の気象条件(12度、小雨)
  • ナイキ厚底シューズの普及
  • 学生長距離界のレベルが上がっている

 の4点で説明できる。

 

今回、最も大きい要因はコース。

公認になったというニュースを聞いたときには、みんな

「わーい公認だー」

くらいの反応だったのに、走り終わってみると

「え、これ、公認でいいんですか!?」

という感じ。

東京マラソンみたいに「記録を出させるコース」が世の中には存在するので、まあ、アリかなあ…。

ただ、そのような素晴らしいコースでも、「気象条件」「ナイキ厚底」という二つの条件がなければ決して高速コースたりえなかった。

何故なら、

日陰がないので晴れたら暑いし、

普通の道路より硬いので脚へのダメージが大きい

からである。

 

そして忘れてはならないのは、学生長距離界のレベルも間違いなく上がっているということだ。

新たに強化校となる大学も増えている。

ラソン日本記録更新など現役選手の活躍に触発されて、陸上を志す人も増えているのだと思う。

現に、厚底が非公認となるトラック競技でも、例年以上に記録が出ている。

(厚底で練習するようになって怪我しにくくなったから、という人もいるのかもしれないけれど…)

 

タイムが伸びた要因分析(個人編)

もともとのベストは、学部1年の3月に立川ハーフで出したものだ。

今回速くなった要因と、当時との差分は以下の通りと考えている。

  • トラックの走力向上によるもの:90秒
  • 厚底の力:30秒
  • コースの走りやすさと集団の恩恵:60秒

 (時間はわりと適当)

 

トラックの走力向上によるもの:90秒

当時は15'24"が持ちタイムで、走っても15'15"くらいだったと思う。

(同じハーフで68'30"で走った先輩がその次の月にこれくらいで走っていた。よく一緒にポイ練させていただいた)

練習の3000が9'05"くらい。今は真夏でも8分台で走れる。

5000で20秒差なので、ハーフで90秒くらいはあるはず。

 

厚底の力:30秒

僕はそこまでヴェイパーフライの恩恵をそこまで受けられていないと思っている。

もちろん、クッションがあるので地面からの衝撃で脚が痛くならない点は素晴らしい。

しかし、スピードの出しやすさという点では、当時履いていたアディゼロ匠戦(初代)に分がある。クッションもそれなりにあって、ハーフでも普通に履けるシューズだった。

残念ながら二代目からは足型にまったく合わなくなってしまった。しかも、ブースト入ってるし…

昨年はアシックスのソーティジャパンセーハで走り、5kmで脚が終了したので、クッションがある方がいいことは間違いない。

しかし、左足の人差し指の爪が当たって途中から痛みが出てしまったので、ヴェイパーも僕の足型に合っていないという問題点がある。カーボンプレートでごり押ししているだけ。

(爪は結局、真っ黒になりそのまま還らぬ爪となった。南無…)

諸々考えて、シューズの力で稼いだ時間は30秒くらいと予想。

 

コースの走りやすさ・集団の恩恵:60秒

芝浦工大の3'10"のペースメイクが完璧だったおかげで、15kmまでは15分台で押すことができた。

これが10kmだと話が変わっていた。後半かなりペースダウンしてしまっていたと思う。

公園のアップダウンはそこまで苦手な方ではないけれど、フラットの方が走りやすいのは事実。

例年通りのコースだったら30秒以上遅くなっていたと思う。

 

これらの合計が180秒で、今回は88秒の更新。

逆に言えば、92秒分だけ、当時の方がハーフのための練習ができていた。

具体的には、距離走、日頃のジョグの距離。

今回は予選会で走れるかどうかすらわからなかったので距離走は9月になるまでやっていない。当時は完休なしで月500km走っていたので、脚もできていた。

とは言え、その練習方針を続けたことで2年間故障続きになったので、すんなりそのやり方に戻すのがいいとも限らない。

 

今後について

今回は、このような社会情勢のなかハーフを走らせてもらえて本当にありがたいと思う。

課題はいろいろあるけれど、冬期練に入るまではトラックに集中する。

11月の10000挑戦会で30'40"、12月の日体5000で14'40"を目指す。

夏から立甲トレーニングを行い、10月に入って腸腰筋ほぐしを始めたことで、ランニングエコノミーが上がり始めたのを実感している。

まだまだ発展途上だけれど、しばらくはこの方針で頑張りたい。

長期的にはハーフも記録を伸ばしたいので、冬季から距離走も再開する。

(というか、長距離パートは現状大学のトラックが夜しか使えず、朝型の自分には相当きついので、部活でロード練習が増えると参加しやすくなってありがたいです…!)

早く駒場で午前練できるようになるといいなあ。

 

雑感(心の声を箇条書き)

  • 今回のコース、一度公認を取ったから今後も公認?これから社会情勢がどうなるかわからないけれど、来年も無観客ということは十分あり得る。そしたら、また高速コースの再来…?(あるいは、日陰なし灼熱コースの到来…?)
  • 外側にある給水コーナー、遠すぎて取りに行く気になれなかった。涼しいということ以上に、「集団から離れたら試合終了」が自明だったもので…。
  • 今回の周回コース、見ている方も8回見れるから楽しかったらしい。もちろん、現地に来れる人はかなり限られるけれど。
  • 声援は禁止とのことだったけれど、「応援してくれる人が常に近くにいる」というだけで、直接声援をもらうのと同じくらい力になった。ありがとうございました。
  • 荷物の移動がないのでサポートの人にも優しい。例年だと、IDを持っている人二人で選手全員分の荷物を駐屯地からみんなの原っぱまで制限時間内に運ばないといけない。学部2年のとき、雨を含んで重くなったウェアなどを運ぶのはほんとに辛かった。疲労骨折もしてたし。
  • タイマーが二か所にあったのも素晴らしかった。手元で測っているとは言え、ラップとトータルをいちいち切り替えたくないからあった方がいい。
  • スタートは密になるのが自明ということで、例年の「全大学一直線方式」から二段スタートへ変更。これも良かったので、無観客とか関係なく今後もこのやり方にしてほしい。若干後ろからのスタートになるけれど、スタート直後の一争いに巻き込まれず、例年より余裕を持ってインコースに入ることができた。某後輩はスタートで目の前にいた山梨学院大を「半分食います」と言っていて、3人食った。すごい。
  • このような社会情勢で、学生へ最大限の配慮を持って標準の引き下げと予選会の開催を実現してくださった、学連をはじめとするすべての関係者に感謝(絶対見ていないと思いますが)。標準が例年通りだったら僕らは出場できていませんでした。ありがとうございました。

【DC1面接免除採用】学振申請書の書き方

 博士学生みのん(@min0nmin0n)さんの、学振申請書の書き方に関する以下の記事が面白かった。

博士進学を目指す学生にとって、有益な情報であふれている。

ocoshite.me

申請書の作成は1月から始めて、第67版が最終版だったらしい。

ここまで徹底して取り組める方もそうはいないと思うけれど。。。

 

一般に、学振は

採用されている人が多い研究室にいるほど採用されやすい

傾向にある。

審査基準が偏っているとか、そういうことではない。

そのようになる理由は、

採用されやすい申請書の書き方について、研究室にノウハウが蓄積されているから

である。

一方で、周りに採用されている人が少ないと、上手い書き方を学ぶことができず、なかなか採用されないという話も耳にする。

ノウハウを知っているかどうかで、勝率が大きく変わってしまうのだ。

 

僕は学振DC1に面接免除採用内定となり、令和2年度(2020年度)より特別研究員となった。

(なお、本記事執筆は2020年10月)

修士時代、研究室に特別研究員の先輩が5人(うちDC1が3人)いたので、かなり恵まれた環境で申請書を作成することができた。

今回は、先輩たちの申請書に学び、実際に自分も採用を勝ち取ることができた経験に基づいて、僕が考える「採用されやすい申請書の書き方」について、まとめてみた。

 

個人の見解も多々あると思うので、参考程度に読んでいただければと思う。

 

もくじ

 

前提:DC1で業績は重要?

業績がある方が有利なのは当たり前だ。

しかし、業績がある=採択、というわけではない

お世話になった博士課程の先輩5人のうち、3人がDC1、あとの2人がDC2に採用されていた。しかし、内訳を見てみると、

  • DC1採用、申請時に第一著者論文あり:1人
  • DC1採用、申請時に第一著者論文なし:2人
  • DC2採用、DC1申請時に第一著者論文あり:2人

となっている。ちなみに、論文はいずれも査読あり英語論文、インパクトファクターは3~5くらいで、第一著者なので業績としては十分すぎる。

論文があれば必ず通るものではないし、論文がないからといって採択されない、というわけでもない。

DC1であれば論文を持っていない人の方が多数派だと思うので、申請書の比重は必然的に高くなる。 

申請書を書き始める前にやるべきこと2つ

実際に申請書を書き始める前に、次の2つのことをやるべきだ。 

①先人の申請書を入手する

ノウハウを学ぶ上で一番の教材になるのは、実際に採用を勝ち取った申請書にほかならない。

先述したように、僕の研究室の先輩は、学振特別研究員が5人いたので、採用された申請書を複数いただくことができた。

もしそういう研究室にいなければ、同じ専攻で学振に採用されている人に申請書をもらえないか頼んでみた方がいい。

それが無理な場合は、違う分野でもいいから申請書をもらえる人にもらっておいた方がいい。

あるいは、インターネットで公開されている申請書を入手するのも一案である。

xn--w8yz0bc56a.com

②申請書のストーリーラインについて、上司に同意を得ておく

申請書は、

研究の背景 → これまでの業績 → 現状の課題 → これからの研究計画

というストーリーに沿って書くことになる。

本文を書く前に、絵コンテなどで全体の概要をまとめておいた方がいいことは言うまでもない。文章を書きながら次のことを書くのは効率が悪いからだ。

そして、ここで言いたいのは、

あらかじめ作ったストーリーラインについて、本文を書く前に上司に合意を得る

ということである。

申請書は後々、上司(先輩や助教、教授など)に添削してもらうことになる。その際、

「そもそも、ストーリーおかしくない?」

という指摘をされてしまったら、それまでに一生懸命書いた文章はすべて水の泡。

端的に時間の無駄だ。

これを防ぐためには、本文を書く前に上司を打ち合わせをして、どのような流れで書くのかをはっきり決めるべきだ。

僕も、締め切りの1か月半前にストーリーラインを教授と打ち合わせしてから書き始めた。

そのおかげで、申請書の中身を大きく書き直すようなことにはならなかった。 

申請書を書く上での最重要ポイント3選

申請書を読む審査員も人の子だ。

客観的に判断しているつもりでも、どうしても認知バイアスを打ち消すことはできない。

したがって、申請書の見栄えが良ければ、その分採用されやすくなる可能性も高くなると考えられる。

実際、僕の研究室の先輩たちの申請書は決まって体裁が良かった。

そのような申請書を書くために、最も重要だと考える3つのポイントについて解説する。

①かっこいい図や写真を載せる

審査員の立場になって考えてみよう。

審査員は膨大な量の申請書を読まなければならない。したがって、全ての申請書について全力を持って対応することは不可能だ。

そのような中、審査員に「これいいかも?」と思わせ、実際に本文をしっかり読もうという気にさせるのは何か。

見やすくてかっこいい図である。

就活の面接で、その人を採用するかどうかは最初の10秒で決まってしまうと言われている。そして、残りの時間は、最初の10秒で得た印象を正当化するための根拠を作るだけにあるそうだ。

この話がどこまで本当なのかはさておき、第一印象というのはそれくらい大きなインパクトを与える。

そして、申請書における第一印象を決めるのが図にほかならない

図や画像は文字に比べて圧倒的に情報量が多い。

本文のエッセンスが図に凝縮されていれば、その分だけ本文をきちんと読んでもらえる可能性もぐっと高まる。

僕の考える「かっこいい図」とは、

  • 立体感や臨場感がある
  • 何をしているかが一目で理解できる

 というものだ。

イメージ図はなるべく立体感がある方がいいPowerpointでも3D書式を利用すればそれなりにかっこいい図を作ることができる。大学でライセンスが配布されているなら、CADを使うのも手だ。

複雑な図になってしまう場合は無理に3Dにしなくてもいいが、見栄えに気を遣った方がいい(最終的にはグレースケールで提出することに注意)。

実験の様子や装置、実験対象などを写真で載せるのもいい。

もちろん、グラフは立体化する必要はないので、プロットのサイズや軸ラベルがはっきりと見える大きさになっていればそれで十分。

NatureやScience及びその姉妹紙に掲載されている論文の図が参考になる。

②わかりやすい見出しをつける

それぞれの記入枠の配分などは自由に決められる分、読む人に「どの情報がどこにあるか」がすぐに見つけられるようにした方がいい

「研究の背景と問題点」「解決方策と研究目的」などといった見出しをつけながら、枠の中をさらに小分けにして各項目ごとにパラグラフを作っていくのが効果的だ。

その際、見出しは

  • [ ]や< >でくくる
  • 本文より少しだけ大きいフォントを使う(本文11pt見出し12ptにするのがおすすめ)
  • 太字にする

というようにして、本文よりも目立たせる。

同じ項目の中で小見出しをつける必要がある場合(業績や研究計画が複数ある場合)については、それぞれの小見出しに下線を引いて並列関係にあることがわかるようにする

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学振申請書(研究の背景、実績)の配分例。中身は見せられません…

③本文の中でも太字を活用する

本文中に現れるキーワードや重要性が高く強調したいところは太字を用いる。

下線や網掛けでも強調できるが、太字の方が文字そのものが視覚情報として入りやすいので、太字の方がいいと思う。

太字は、

太字しか読まなくても8割の内容は理解できる

ように使っていくべきである。

だからと言って、文字の8割を太字にすればいいという意味ではない。あまり太字だらけだと何が重要なのかかえってわからなくなってしまうので、2, 3割に抑える。

全体の2割の文章で全体の8割の内容を説明するにはどうすればいいか、何度も申請書を読み直して考える。

全体を200字要約してみて、要約に利用した部分を太字にする、というのも一案だ。 

本文が書けたら

申請書を書く前に、あらかじめ上司とストーリーラインを決めておけば、「何を書くか?」という点については後から大きく修正する必要がなくなる(ことが多い)。

ところが、内容が決まった後でも、それを「どのように書くか?」という点は何度も修正することになる。

よりわかりやすく、より有意義な研究に見えるように、何度も改良を重ねるのだ。

 

ここでは、

①書いた文章を音読して、読みにくいところ、わかりにくいところを直す

②上司(先輩や助教、教授)と文章の読み合わせをして、表現を直してもらう

という二つのプロセスを経ることをおすすめする。

①書いた文章を音読して、読みにくいところ、わかりにくいところを直す

書いた文章を読み直してみると、書いているときは気づかなかったミスが少なからずあることに気づく。

全体を通読してみると、「この項目はなくてもいいな」「ここはもう少し膨らませよう」など、配分の再調整をする必要に気づくこともある。

文章を読む際には、声に出して読んでみるのがいい。流し読みでは気が付かないような、読みにくいところやわかりにくいところを発見できる。

②上司(先輩や助教、教授)と文章の読み合わせをして、表現を直してもらう

上司に文章を直してもらう際、ただ文章を送って「添削お願いします」とするより、時間を取ってもらって読み合わせをした方がいい

読み合わせをするメリットは、

  • 上司が集中して文章の添削に取り組んでくれる
  • 表現の修正についてリアルタイムで議論や相談ができる
  • 上司の前で音読することで、表現に自信がないところ、違和感があるところを洗い出せる

などがあげられる。

自分ではいいと思っていても、上司に直してもらうと「こっちの方がいいな」となることが多い。

読み合わせは最低でも1~2時間くらいかかる。

お願いする場合には、スケジュールを確保してもらえるように早めにアポを取っておこう

そうすることで、疑似的な締め切りもできるため、早めに申請書を書き進めようという気にもなる。

もちろん、上司から「時間が取れないから、とりあえず書いて送っておいて」と言われたらそうするしかない。ちゃんと添削してくれることを祈りながら… 

自己PR欄に必ず盛り込むべき2つの要素

「研究者を志望する動機」などについて記述する最後のページは、いわゆる「自己PR欄」である。

このページが採用にどこまで大きく影響するのかはわからないが、審査員に好印象を持ってもらえることを書いていくに越したことはない。

それぞれの項目を書く上で、必ず盛り込むべき要素が二つある。

①ショートエピソード

ショートエピソードとは、「実際に経験したこと、取り組んできたことを短めのストーリーにしたもの」である。

就活の面接で、「あなたの長所は何ですか?」と質問されたとする。

そのとき、ただ「地道に物事をコツコツ続けていく粘り強さです」とだけ答えるよりも、

「地道に物事をコツコツ続けていく粘り強さです。大学の部活で陸上競技の長距離に取り組んできました。部活の練習に加え、毎朝欠かさず10km走ることを続けてきたおかげで、毎シーズン自己記録を更新できました。」

のような具体的なエピソードがあった方が、相手に与えられる納得感がはるかに大きい

したがって、研究者を目指す動機や自己の長所を書く上では、自分の書いたことを納得してもらえるようなエピソードも一緒に書くようにしよう

②社会貢献への強い意志

どんな仕事でも誰かの役に立っている。学術界の研究者でも同じだ。

一方で、大学の研究者の場合、自分の興味にまっすぐ向かっていった結果、研究者になりました、ということが少なからずある。

研究の内容がより学問的なものになればなるほど、「実際に社会にどのように役立つか」という視点をあまり持たずに研究をしている人もいるかもしれない(アインシュタイン相対性理論GPSに利用されているように、何十年も経って役に立つ点で学術研究にも価値があるのだけれど)。

しかし、そのような前提で、「自分が興味があるから」とだけ書き、「社会に貢献する」という視点が抜け落ちている申請書は、あまり印象が良くないと思う。

何故なら、税金から学振特別研究員へ給料を支払う以上、「少しでも社会へ還元できる可能性が高い人を採用したい」と審査側が考えるからだ。

したがって、自己PR欄では

自分が研究者として優れている

ことに加え、

研究で得たことを社会貢献へつなげたい

という内容を積極的に盛り込むべきである。

「自分の分野はかなり学問的だから、社会実装できるような応用にはつながらないよ」と感じる場合もあるかもしれない。

そのような場合は、

積極的な発信を行っていく

という書き方をするといいと思う。

何も、自分が発見したことが直接実装されるだけが社会貢献ではない。

学問の面白さ、研究の面白さ、そういったものを積極的に発信していくことで、次世代の学生が

「自分も研究者になりたい」

と思って勉強するようになったら、それだけでも大きな社会貢献であると言える。

 

おわりに

研究計画などの細かい内容については、分野によっても書き方が大きく異なると思われるため、今回は割愛した。

なるべく平易に書いてきたつもりだが、もし「ここがわからない」という場合や、質問がある場合には、コメントしていただければ、なるべくお答えする。

 

改めて述べるが、学振は「書き方を知っているかどうか」で採用されるかどうかが大きく左右される

申請書を書く前には入念に調査をし、申請書の作成は時間に余裕を持って取り組むようにすると、採用される可能性を高くすることができる。

 

(これから申請する予定がある人は、頑張ってください!)