2021年シーズン振り返り
もくじ
レース結果
(太字はシーズンベスト、非公認含む)
3/26 院カレ5000m 15'14"8 (Vaporfly NEXT%)
4/4 東大競10000m 33'50"4 (fuelcell 5280) *ペーサー
4/24 日体長10000m 31'58"58 (fuelcell 5280)
6/19 東海長3000m 8'53"10 (Zoom Matumbo)
7/4 東大選手権5000m 15'08"50 (fuelcell 5280)
9/4 タイムトライアル3000m 8'53"05 (Sortie Japan SEIHA)
10/23 箱根駅伝予選会ハーフ 68'07" (Metaspeed sky)
11/14 日体長5000m 15'14"57 (fuelcell 5280)
11/23 記録挑戦会10000m 31'47"32 (fuelcell 5280)
12/5 日体長5000m 15'04"90 (fuelcell 5280)
12/19 松戸市記録会10000m 30'58"91 (fuelcell 5280) PB
12/25 平国長5000m 15'16"62 (fuelcell 5280)
各期ごと反省
1~3月
〇それなりに練習を積めた。距離走を3本こなしてハーフへ向けた脚づくりができた。
×2月の終盤から近所の一人でポイント練習をやっていた時期、妥協して質が落ちてしまった。
4~6月
〇間の日の坂ダッシュやファルトレクを継続できた。トラックで質の高い練習がこなせた。
×出るべきレースの見極めが悪かった。疲労回復のための取り組みがおろそかになっていた。
7~9月
〇間の日のロングジョグや合宿で脚づくりができた。インターン期間中も起伏あるコースで走りだめができた。
×研究とインターンとの三立でキャパオーバーしていた(計画性のなさ…)。
10~12月
〇予選会ハーフでまずまずの走りができた。春夏の練習が効いたと思う。10000mでもコンディションに恵まれて30分台を出せた。
×予選会をそれなりに走れたことで慢心してしまい、それ以降の練習をサボりがちになってしまった。特に、11月は練習量を落とさず練習の流れの中でレースを走るべきだった。春夏の走りだめを予選会で使い切ってしまい、11月以降調子が上がらなくなって15分を切れずにシーズンが終わってしまった。
総括
今年は徹底的に動作へフォーカスした。その結果、7年前の左仙腸関節の負傷以来崩れてしまっていたバランスを改善できた。具体的には、
・接地位置(重心の前、外に着いていた。真下へ落とせるようになった)
・重心位置(特に左足について、前足部によっていたのをくるぶし下へ持ってきた)
・上体の角度(上の二つの影響で過度に前傾していたが、軽く前傾する程度になった)
の3つについて、時間をかけて直すことができた。
間の日にペース走やインターバルではなく、坂ダッシュとファルトレクにしたのもこのため。坂では接地や重心がおかしいと途端に走りにくくなるので、フォーム矯正に効果があったと思う。ファルトレクは小刻みにペースを変えるので、いろいろ動きを試すのに便利だった。
間の日の距離やポイント練習の負荷は昨年までとそこまで大きく変えていない。それでも、動作改善により走力が少しずつ伸びている実感はあった。それがうまく記録に結びつかなかったのはもどかしいけれど、方向性は合っていると思う。
来シーズンへ持っていきたい反省
・春夏は間の日に疲労が強くて継続がしんどかったけれど、この期間にロングジョグなり距離走なりした分はちゃんとハーフマラソンに効いてくる。ポイ練後のペース走も効果があったと感じる。この冬にも取り組みたい。
・坂ダッシュを優先したので仕方ないけれど、ペース走やインターバルの回数が足りなかった。5000mや10000mで記録を出すためには重要な練習。逆に、レぺがいくら走れてもあまり意味はないのかな、と思う。
・12月日体長以降、毎日湯船につかるようにしたら明らかに脚の疲れが残りにくくなった。就寝時刻が多少遅くなっても湯船につかる10分を捻出するべき。
その他雑感
・来年はマラソンを走りたい。北海道マラソンに興味あり。30km走のほかに、週1くらいで120~150分jogとかできるといい(なお来年D3)。
・1月に買ったfuelcell 5280、初めは常に脱げそうでカーブも曲がれないシューズだったが、動作改善により履きこなせるようになった。むしろ、「このシューズを違和感なく走るにはどうしたらよいか?」という視点が動作改善に役立ったとさえ思っている。今ではとても走りやすくてお気に入り。
・ようやくドラゴンフライを手に入れたので、春夏は1500mも走りたい。5000m以上はfuelcell 5280とどちらが良いか履き比べてみる。
・この一年で新たに知り合った人が多く、陸上関連の人間関係が充実していて人生楽しい。来年は院生チームが予選会で学部生に勝てる見込みがあり、学生ラストシーズン(?)が今から楽しみ。
【第98回箱根駅伝予選会】 試合反省と雑感
もくじ
結果
箱根駅伝予選会
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年10月23日
68’07”(15’29”-51”-16’19”-47”-3’41”)
2nd best(PB+20秒)
個人330位 チーム内3位
風が強く全体的に記録が低調な中で、及第点の走りはできました。
ふくらはぎを攣りかけてラスト上げられなかったのが悔やまれる…
反省は後ほどまとめます
応援、サポートありがとうございました!! pic.twitter.com/0QTY7pPoV9
目標達成状況
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年10月23日
①A目標66’00” B目標67’30”
→達成できず…
②学部生の3番手に勝つ
→達成(道岡以外に勝利、終盤道岡に追いついた時は勝ったと思ったんだけどな…)
③個人順位ベスト
→達成(過去最高はB3のときで341位、今回は330位)
5年前と比べて強化校が増えたので、実力的にはかなり伸びてる
去年の個人330位は66’23”
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年10月23日
単純比較していいものかわからないけれど、とりあえずコンディションが合えば66分台くらいの力はあると思っていいはず
14’40”狙います
レースプラン
当日会場に着いてから強い日差しと北風を感じ、明らかに記録が出ないコンディションであることを悟りました。
ひとまず31'30"での入りを想定。後半悪くても32'30"で20km63分台、トータル67分前半でまとめられる自信がありました。
向かい風の方ではとにかく集団の後ろにつき、追い風の方では自分のペースで気持ち良く走るプラン。
レース展開
昨年は3'10"/kmの大集団についていき、15kmで離れてからは一人でひたすら粘る単純なレースでした。
今年はコンディションが厳しかったこともあり、何度も判断を迫られました。
スタート位置は内側から3番目。最初の直線、ものすごい数のランナーが外から入ってくるので、ペースは気にせずとにかく流れに乗りました。
1kmは3'08"通過で予定通り。外側にランナーがたくさんいたので、向かい風の影響はほとんどありませんでした。
追い風の直線では全体のペースがキロ3近くまで上がりました。とは言え、集団についた方が楽なのでそのままついていきました。
2周目も集団につけたので向かい風の影響は少なく、追い風の方で気持ち良く加速しました。
5km通過は15'29"。予定より10秒速かったですが、疲れを感じなかったのでペースは落としませんでした。
3周目に入り、前からぽつぽつ強化校の選手がこぼれてきました。ハイペースだったのでしょう。
彼らに追いついてしばらく後ろを走りましたが、かなり余裕があり、ペースが落ちていることへの焦りが出てきました。
結局、我慢できずに前へ出てしまいました。これはミスでした。
実際にペースは落ちていましたが、そこまで大きなペースダウンではありませんでした。
前半だったので、ここで一旦体力を回復したほうが良かったです。
3周目の追い風側ではまだ元気でしたが、4周目に入って集団から離れてしまい、一人で風を浴びて走ることになりました。ここで一気にきつくなりました。
既にレースをやめたいくらいにはきつかったのですが、向かい風は惰性で走り、追い風で切り替えると10km通過は31'20"。
後半32'00"でいけば66分台はあるぞ、と自分を鼓舞しました。
ここで精神的に立て直せたのは大きかったです。
5,6周目はペースは気にせずとにかく前についていきました。
ここで気持ち的にかなり楽ができたので、あと2周頑張る元気がでてきました。
15km通過は47'39"で、昨年と同じタイム。
10~15kmで回復したので15km以降は昨年より速く走れるだろうと思いました。
この時点で66分台は諦めていますが、まだ67'30"は行けるだろうと考えていました。ラストスパート用のエネルギーも残っている感覚がありました。
7周目は特に問題なし。追い風でしっかり稼いで集団に追いつきました。
8周目に差し掛かる向かい風の直線、しばらく人についていましたが、はやる気持ちを抑えられずに前へ出てしまいました。これが二つ目のミス。
案の定消耗し、すぐに集団に抜き返され、そのまま置いて行かれました。
ここで大きくペースダウンしてしまいました。
追い風の方へ差し掛かり、この直線で脚を使い切ろうとスパートをかけようとした途端、左腓腹筋を攣りかけてしまいました。
そのままスパートはせず、最後の向かい風へ。
ゴールが意外と遠い。向かい風が強すぎて最後はもがくように進み、何とかゴール。
良かった点と反省点
○向かい風と追い風で走り方を意識的に変えた点。途中やむを得ず孤立して風を浴びる局面もありましたが、向かい風の方でペースが遅くなるのを計算に入れて冷静に対処できた場面が多かったです。
○最後まで集中を切らさず走れた点。今回のようなシビアなコンディションで、一旦気持ちが切れてずるずるいってしまったレースが過去何度もありました。15kmまで自己ベスト更新が見えていたこともありますが、最後まで妥協せず走れたことは評価できると思います。
×レース中2度、前に出るべきでないところで出てしまいました。頭ではわかっていても、つい前に出たい衝動に勝てませんでした。ペースが落ちていることへの不安を抑えられなかったともいえます。このあたりはまだ経験値が足りませんでした。
×追い風のところで、前半から脚を使い過ぎてしまいました。前半は楽すぎるくらいでちょうどよくて、あまり設定ペースにとらわれ過ぎないほうがいいと思いました。
総括
タイムは振るいませんでしたが、それなりに手ごたえを感じるレースができました。
シビアなコンディションへの対処については、季節外れに暑かった第93回箱根駅伝予選会での失敗経験が生きました。厳しいコンディションでもベストは出ると思っていましたが、さすがにそこまで甘くないですね。
ピーキングはうまくいきました。9月までは慢性疲労がありましたが、10月に入ってから丁寧にコンディショニングしてギリギリ間に合いました。あと1週間早かったら間に合っていなかった。。。
それから、メタスピードスカイの恩恵も大きかったです。ヴェイパーの反発は好きなんですが、いかんせん足型が合わないので…
今後について
この一年は、7年前の仙腸関節の故障による後遺症と正面から向き合って改善に取り組みました。予選会一週間前、ようやく後遺症の影響を感じずに走れている感覚が得られました。
まだまだ良くなると思いますが、ひとまず秋冬シーズンはトラックで記録を狙いにいきます。14'40"切りたい。
冬からフルマラソンを意識して25~30kmの練習を増やそうと考えています。学生のうちに走っておきたいので、来年こそ大会が開催されることを祈っています。
その他雑感
・院生チームあるあるですが、今年も出場はギリギリでした
やった!予選会出れる! https://t.co/rr4nJIyvAM
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年10月9日
これで院生チームは11人
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年10月9日
その中で院から院生チームに来てくれた人は5人
その中で今年から院生チームに加入してくれた人は3人(博士課程2人)
入ってくれる人に毎年救われてます…!
「院でも予選会出れるから、東大来ない?」なんて上から目線でした、、、
ありがとうございます😭
・昨年は二段スタートでしたが、今年は一段スタートでした。個人的には二段の方が好きでした。きっと、スタート位置が違うのは不公平だというクレームが出たんでしょうね…
・序盤は風より日差しの影響を強く感じました。もちろん日陰なし。途中でゼッケン2桁の選手を何度か見かけたので、強豪校でも何人かは崩れていたんだろうな、と思います
・来年は、冗談ではなく学部生チームに勝ちたいです!
・古川惜しかったですね。まだ本戦で走れないと決まったわけではありませんが、本人はもう来年を見据えていると思います。まだまだ伸びそうな気がするので、来年に期待です。
東大を出ても必ずしも研究者として成功するとは限らない理由
もくじ
- 進路どうしよう問題
- 博士での研究がうまくいっていない理由
- 既存のテーマの焼き直しは得意だけれど…
- ペーパーテストで身につかない能力
- 二つの能力
- 研究者に課題発見能力が求められる理由
- 課題発見能力がないから活躍できないというわけではない
- 結論。
- 進路どうしよう
進路どうしよう問題
6月になり、後輩たちが就活終了宣言するのを聞くようになりました。
こうしてまた後輩が次々と社会人になっていく現実と向き合いつつ、ちゃんと博士号を取れるだろうかなんて少し自分の身を案じたりする今日この頃です。
先日、東大の某研究所が主催する博士人材向けのワークショップへ参加し、計算科学関連のテーマでのインターンシップへ応募する準備をしております。
一方で、これまで全く考えていなかったアカデミアへのキャリアも少しずつ考えるようになりました。
きっかけはアメリカの大学院で博士学生としてヨーロッパで研究している同期の話を聞いたこと、研究室の先輩がスペインでポスドク研究員になったことです。
海外ポスドクですが、まだ情報収集を始めたくらいでちゃんと吟味したわけではありません。
しかし、ずっと日本で暮らしてきた自分にとって、若いうちに海外で働く、生活する、海外で日本人でない人と交友関係を得るといった経験ができる選択肢は魅力的なものに感じます。
ポスドク助成金を得る(もしくは雇われる)ため、そして将来的にアカデミアでポストを得るためには、当然ながら人並み以上の業績が求められます。
恥ずかしい話、博士での研究はそこまでうまくいっているとはいえないので、まだポスドクになろうと決心できるだけの状況ではないです。
博士での研究がうまくいっていない理由
今の自分に決定的に足りないのは課題発見能力だと思っています。
一般に、研究室ではPI(研究室を運営するボスのこと。教授や准教授である場合が多い)の出す方針に従いつつ、学生は与えられた研究テーマに取り組みます。
博士課程学生は、修士までで培った知識や技術、経験を武器に、ある程度自力で課題を見つけ、それを解決していくことが求められます
。もちろん、PIはじめスタッフのサポートを受けることはできますが、究極的には自分の研究には自分で責任を取る意識が不可欠です。
修士時代は、M1に与えられたテーマが終わって以降、PIから自由に研究してよいと言われていました(悪く言えばあまり指導してもらえない状況でした)。
幸運なことに、自力で見つけたテーマでいくつか新たに論文化できるような成果を出せて、複数の賞をいただくこともできました。
ところが、博士進学後、なかなか研究がうまく進まなくなりました。
理由は簡単で、研究テーマがうまく見つけられなくなってしまったからです。
既存のテーマの焼き直しは得意だけれど…
修士まででうまくいってきたテーマは、先輩たちが築き上げてきた研究成果の上に成り立ったものでした。
先輩たちの仕事の続きを一段階勧めたり、既存の手法を少しだけ変えて新たな手法を作り、それまでになかった形での特性制御をする、などです。
既にあるものから一歩先に進む、いわば「既存のテーマの焼き直し」はそれなりに得意だということがわかりました。
一方で、(一見すると)何もないところからまったく新しい物事を見つけるといった類の研究は、これまでうまくいった経験がありません。
博士に入ってから一度、「面白い結果が出た」ということがあったときも、結局は先行研究の焼き直しになっていることがわかりました。
「天才を殺す凡人」(北野唯我)に出てくる3タイプで言えば、自分は「秀才」かもしれないけれど「天才」ではない、ということになります。
ペーパーテストで身につかない能力
自分のように、「秀才」かもしれないけど「天才」ではないタイプは、東大には多くいると考えています。
もちろん、東大が日本一の大学であり、入試を突破してきた東大生は誰もが優秀であることは確かです。
研究室や部活で他の学生と話しているときは、お互い東大生であることを意識して話すことはありません。
ときどき、みんな東大の入試を乗り越えているめちゃくちゃ優秀な人たちなんだよな、とふいに思い返すことがあり、不思議な気持ちになります。
しかし、優秀なら必ず、世間一般で言う「成功」をつかみ取れるのでしょうか。
東大を卒業した人が全員、大学教授になったり、ビジネスで大成したりするわけではありません。
その事実は、ペーパーテストの能力だけで成功できるわけではないことを雄弁に語っています。
運、人脈、コミュ力、行動力、体力など、様々な要素が成功には不可欠です。
しかし、ここで取り上げたいのは、
「一見、東大生なら誰でも持っているように見えて、実は持っていない人が多い」能力である、
課題発見能力です。
二つの能力
問題解決能力=与えられた問題を理解し、その解決方法を既存の知識や技術を元に考案する能力
課題発見能力=雑多に情報が存在する中で、重要度の高い問題を自分で見つけ出す(あるいは作り出す)能力
課題発見能力は、一見すると問題解決能力とそっくりな文字面をしています。
東大の難しい入試問題を解くことができた東大生は、高い課題発見能力も有しているのではないかと錯覚しやすいかもしれません。
しかし、他の大学と比べ高い知識運用能力や問題解決能力を必要とする東大のペーパーテストであっても、課題発見能力を測ることにはつながりません。
何故なら、従来の入試システムでは、出題者が与えた問題を解く以上、自分で問題を見つけることは求められていないからです。
東大も、こうしたシステムの問題点に気づいていたためか、後期試験を廃止し、「一芸採用」的な側面のある学校推薦型入試を導入しています。
ホームページを見るとわかるように、東大は高校生の段階で既に高い課題発見能力を持つ学生を求めていることがわかります。
東大入試はセンター試験を多科目で受験して高得点を取る必要があり、二次試験でもある程度まんべんなく得点できることが求められます。
したがって、一芸に優れ、高い課題発見能力を持ち、実社会でも活躍が期待される人材であっても、東大に入ることができないということは珍しくないのだと思います。
そして、アメリカなど、高校生までに行った独創的活動、研究活動を高く評価する海外の大学へ、そうした「一芸突破型」の学生が流出していくことを防ぎたい、日本で活躍する人材を育てたいという意図があるのでしょう。
(もちろん、数学オリンピックや物理チャレンジなどで優秀な成績を収めた人が、勉強もできて普通に東大に入ることもよくあるので、必ずしも東大生≠天才というわけではないです)
研究者に課題発見能力が求められる理由
課題発見能力は、研究やビジネスの立ち上げには非常に重要となります。
研究で言えば、PIとなり、自分の研究室を運営するようになった研究者は、そこから革新的な研究成果を見つけられるような、あるいは研究資金を獲得できるような研究テーマを考え出すことが求められます。
ビジネスの立ち上げでは、日常に潜む「こういうところ不便だよね」というような問題を見つけ出す必要があります(もちろん、そのソリューションも同時に提案できる必要があります)。
その意味では、無事PIというポストを得ることができた研究者に求められる能力は、スタートアップ企業を成功させるような能力に似ています。
(だからこそ、研究室を立ち上げたあとに起業するPIも珍しくないのでしょう)
課題発見能力がないから活躍できないというわけではない
ここまで読んでくださった方で、
「あれ、自分はまさに課題発見能力がないタイプかもしれない」
と思った方もいるかもしれません。
しかし、課題発見能力がないから社会で活躍できないということはありません。
仕組みが確立している大企業や大組織であれば、そこで働く人には課題を見つける以前に、与えられたことを効率良く高いクオリティでこなしていくことの方が求められます。
その意味では、東大生のような「秀才」タイプは大いに活躍できると考えられますし、そうしたところでは課題発見能力がなくても問題なく働けると思います(実際に働いたことがないので、本当のことは知りません…)。
結論。
研究者として大成するためには、高い課題発見能力が必要です。
東大入試を突破できたからと言って、必ずしもその能力があるかはわかりません。
進路どうしよう
東大生の典型的な進路は、
のいずれかであることが多いように思います。
所属する組織の人数が少なく、組織に対する自分の影響力が大きいほど、課題発見能力も求められます。
アカデミアへ進む人は多いですが、それはスタートアップの立ち上げや事業を軌道に乗せるのと同じくらい高い課題発見能力が必要です。
初めからアカデミアに進むことしか考えていない東大生(または東大卒生)は、たいてい高校までにとてつもない業績を挙げていたり、尋常でない学問への情熱があるので、アカデミア向きだと思いますが、自分はそういうタイプではありません。
修士で運よくそこそこの業績を挙げられただけで、果たしてアカデミアへ飛び込んでいいのか…
(そもそも、それに見合う成果を博士課程で挙げられるか…)
実は大企業向きの典型的な東大生なんじゃないか…
そんなことを悩んで生活しています。
院カレがとても楽しかったので報告します
全ての発端は、飛雄馬の以下のツイート。
全国の大学院生ランナーだけを集めて院生日本一を決めるレースとかあったら面白そう
— 阿部飛雄馬 (@hakua_runners) 2020年12月1日
これに九州大の古川くんが意欲を示したらしく、「大会がないなら自分で作ればよくない?」という話に(飛雄馬談)。
【告知】
— 阿部飛雄馬 (@hakua_runners) 2020年12月24日
来年3月を目標に、大学院生だけの非公認全国大会 #院カレ の開催を企画中!
長距離種目の開催を計画、参加標準などは設けない予定です。
どれくらいの院生が興味があるかが分からず、開催に動き出せない状況です。
興味のある方、出場してみたい方など、お気軽にDMでご連絡ください!
【お知らせ】
— 阿部飛雄馬 (@hakua_runners) 2021年1月29日
大学院ランナー最強決定戦 #院カレ を3/26(金)午後、江戸川区陸上競技場で開催します!種目は5000mのみの一本勝負!
先行きが不透明な情勢ではありますが、より多くの大学院生がレースを楽しめるよう、スタッフ一同ベストを尽くしていきます。
詳細は後ほど!
緊急事態宣言がなかなか解除されない社会情勢のなかではあったけれど、無事に開催される運びとなってよかった。。。
こういう状況だったこともあり、気軽に参加できない方も少なからずいて、そのために棄権した方もいたとか。
次回は全国の院生が気兼ねなく参加できる社会になっていてほしい。。。
レースについて
当日出場者のなかでは、PBが14'04"の古川くんと14'05"の飛雄馬がずば抜けていて、この二人の一騎打ちになることは自明。
飛雄馬の練習日誌を読んでいるので、怪我明けとはいえ飛雄馬の走力は14'20"~30"くらいまで戻っていると予想。
さすがに勝てないとわかっていたので、目標は3位。
他大学にも自分と同じくPB14分台の人は少なからずいました。
彼らも先頭にはつかないはず。
第2集団についていって、どこかで一気にペースアップしてそのまま単独で逃げ切る作戦でいくことに。
で、結果は
第1回院カレ男子5000m
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年3月26日
15’14”8[3’02”-09”-02”-02”-2’57”]
3位でした〜
運営の皆様ありがとうございました!
楽しかったので来年も走りたい#院カレ pic.twitter.com/xd1rFDRcS5
賞状をもらいました。わーい
3’02”-09”-02”-02”-2’57”(15’14”8)
— HiroMat (@xmt6umtk) 2021年3月27日
第2集団が3’09”まで落ちたので、ここで勝負を決めようと思って抜け出してペースアップしたら2600手前で先頭に追いついてしまって「あれ?」となった
初めから3位狙いだったので3000で抜き返されても淡々とペースを刻んだ
来年はもっと強くなって優勝争いしたい https://t.co/6Vct23g6eR
追いついたときは、「もしや、ワンチャンある?」とか思いましたが笑、
さすがに甘くないですね。
院生になっても競技を続けるということ
走り終わってから2日経ってなお、「院カレ楽しかった」と余韻に浸りながらこの記事を書いているわけですが、
それってなんでだろう、って考えてみると、
「自分と同じように大学院でも競技に打ち込んでいる人がたくさんいて、その人達の熱意を近くで感じたから」
なのかなあ、と思います。
一般的に、日本では経済面や就職先の少なさなど、不利な点が多い博士課程ですが、
そういう中でもこうして競技を続けている方がこれだけいて、同じレースを走れた。
なんだかそれだけで、形容しがたい仲間意識みたいなものが芽生えた気がしてます(勝手に)。
大学院でも競技を続けることは、一般的には容易なことではありません。
研究室の体制によって異なりますが、一日の平均労働時間は修士課程で8時間、博士課程で10時間とも言われています。
(ソース不明、間違ってたらごめんなさい)
僕はかなり例外的な研究室に所属できているおかげで、研究にそれほど多くの時間を取られることがなく、今でも競技を続けられていますが、
「学生として競技を続けたいからD進する」みたいなことは一般的ではないでしょう。
だから、研究職として働く準備のために修士課程で研究している人も、
研究の道を突き詰めようという意志を持ってD進した人も、
「陸上競技が好きだから忙しくても研究と両立できる」
という言葉だけでは片づけられないときもあると思います。
そんなときには、一緒に練習し、一緒に院でもバリバリ競技を続けている仲間や先輩の存在が大きな支えになることもあるでしょう。
運営委員の一人である、京都大学法科大学院の原田くんが、「新たな世界を開いてくれた先輩のおかげで、今でも競技を続けられている」ということを院カレブログに書いていました。
まさにそういう「前例」が、ときに院生ランナーの心の支えになっているんじゃないか、と。
どんなに陸上競技が好きでも、
院でも競技を続ける人が数多くいる環境にいない場合や、
箱根駅伝予選会・地方インカレといった、「学生だからこそ出られる」大会に出るチャンスが少ない人にとっては、
「院生になってまで競技を続ける価値があるのか?」と迷いをいだく場面は少なからず出てくるでしょう。
そんなとき、
「院カレで競い合った仲間たちも、きっと今ごろ頑張っているに違いない」
と思えるようになっただけでも、この大会には大きな意義があるんじゃないかな、と感じました。
運営など一切携わっていないのに偉そうですみません。
最後になりましたが、運営委員会のみなさま、同じレースをともにした院生(&学部生・OB)のみなさま、どうもありがとうございました!!
(写真・動画はすべて
から転載いたしました。不都合などありましたらコメントしていただけると幸いです)
骨盤は前傾していればいいってもんじゃない
先日、とある後輩から「脚の慢性疲労が抜けない」という相談を受けた。
走りを見る限り、動きに硬さは感じないのだけれど、練習をするとすぐにお尻やハムストリングが疲れて力が入らなくなってしまうのだという。
さらには、同じ出力で走っているつもりでも、練習のタイムが過去のものと比べて低い水準にとどまってしまっているらしい。
疲労が抜けない原因はいろいろ考えられる。睡眠や栄養が足りていない、オーバートレーニング、日常生活でのストレスなどなど…
けれど、あえて今回は、身体面からその原因を考えてみたい。
後輩の身体の状態を少し調べてみると、
立位(二本足で立っている状態)で腰がかなり反っている、いわゆる「反り腰」の状態になっていることがわかった。
おそらく、後輩の「お尻やハムの疲労が取れない」という問題は、
反り腰によって腸腰筋が硬くなって機能しなくなった
ことも関係しているのではないかと考えた。
以下、このことについて具体的に説明してみる。
もし、自分にも当てはまりそうな話があれば、参考にしてもらえるとうれしい。
もくじ
反り腰=過度な骨盤前傾
反り腰とは、本来よりも腰が大きく反っている状態のことを指す。
このとき、骨盤は大きく前傾している。
立位では、背中をそらす(体幹を進展させる)か、股関節を屈曲させる(脚の付け根を閉じる)ことで前傾するようになっている。
したがって、反り腰になっている人は、
- 肋骨を前へ突き出している(胸を張り過ぎている)
- 背中や腰が常に力んでいる
という状態にある。
これにより、腰に負担がかかりやすく、腰痛につながることも多い。
反り腰の何が問題なのか
反り腰の一番の問題点は、
骨盤が動きにくくなり、その結果、
股関節の可動域が制限されてしまう
ことだ。
どういうことか、順を追って説明する。
まず、大前提として、
効率のよいランニング動作には、股関節伸展が重要な役割を果たしており、
大臀筋(お尻の筋肉)やハムストリングといった股関節伸展筋が十分に機能していることが不可欠である
ということを認めてほしい。
(理由は割愛)
次に知っておいてほしいこととして、
股関節を伸展させるには、骨盤を前傾させる必要がある
ということである。
これはどうしてかというと、
- 大臀筋は骨盤と大腿骨(太ももの骨)とを結ぶ筋肉
- ハムストリングは股関節をまたいで骨盤と脛骨(すねの骨)とを結ぶ筋肉
であり、これらの筋肉が縮むことは、
骨盤と脚の骨との距離を縮める
ことにほかならないからだ(上図参照)。
さて、反り腰とは、「立っているだけで骨盤が大きく前傾している状態」であった。
この状態からさらに骨盤を前傾させようとしても、可動域には限りがある。
本来は股関節伸展の可動域を確保するために骨盤の可動域をとっておきたいのに、骨盤の動きを自ら制限してしまっているのだ。
腸腰筋が固まってしまう
反り腰のもう一つの問題点は、
腸腰筋が硬くなって機能しなくなる
ことだ。
その結果、
- 股関節の可動域が狭まる(ストライドが小さくなる)
- 股関節伸展筋のパワーが下がる
- 股関節伸展筋が疲れやすくなる
という問題が生じる。
腸腰筋は、背骨と大腿骨を結ぶ大腰筋、骨盤と大腿骨を結ぶ腸骨筋の総称である。
いずれも股関節を屈曲させる作用がある。
反り腰になると、常に股関節が屈曲している状態になる。
このとき、腸腰筋は本来の長さより短くなっている(短縮している)。
この状態が当たり前になると、腸腰筋はどんどん硬くなってしまう。
すると、股関節の伸展方向への可動域が狭くなってしまう。
実際には、
「腸腰筋が固いから反り腰になる」
のか、
「反り腰だから腸腰筋が固くなる」
なのかはわからない。鶏と卵。
腸腰筋が股関節伸展筋の力を引き出す
腸腰筋がランニングに重要であることは、なんとなくご存知の方が多いと思う。
改めて言うが、腸腰筋の作用は、股関節の屈曲だ。
つまり、腸腰筋は、股関節を伸展させる大臀筋やハムストリングと拮抗する筋肉である。
そして、筋肉のパワーを最大限に引き出すためには、この拮抗関係というのが非常に重要となる。
具体的には、
「主働筋が作用するとき、拮抗筋がゆるんでいる」
という状態をつくることで、主働筋の力を最大限引き出せる。
教科書的には、主働筋が作用するときは拮抗筋は必ずゆるむ。
しかし、現実はそうなっておらず、主働筋が作用しているときに拮抗筋も収縮するケースが少なからずある。
初動負荷理論の創始者である小山裕史先生の言う「共縮」という状態だ。
これは、いわばアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもので、主働筋の力は拮抗筋に打ち消されてしまう。
さらには、動きの中で筋肉がリラックスすることが少ないため、リラックスできている人と比べて、早く疲労してしまうという問題もある。
(↓詳しく知りたい人向け)
反り腰を直すための4つの方法
さて、そんな反り腰をどうやって直せばいいのか、という実用面の話。
大きく分けて、以下の4つが有効であると考えている。
①日常生活の中で腰に力が入っていないかこまめに点検する
②腹式呼吸の練習をする
③腸腰筋のストレッチ
④脊柱起立筋のストレッチ
①日常生活の中で腰に力が入っていないかこまめに点検する
地味だけれど、結構大事だと思ったので最初に持ってきた。
反り腰の人は、普段の生活から常に腰に力を入れていることが多いと思う(僕の経験談)。
意識的に腰椎周りの力を抜くようにして、普段の動作がどう変わるか観察してみる。
自然と中臀筋でバランスを取ったり、脚が前へ出やすくなればいい兆候だ。
特に、普段リュックサックを背負って出歩く習慣がある人は、リュックの紐を調節してリュックと背中の密着度を上げるようにした方がいい(夏は厳しいかも)。
②腹式呼吸の練習をする
床に仰向けになり、へその下あたりをリラックスさせる。
このとき、おなかだけでなく腰もしっかり脱力する。
その状態でへその下をリラックスさせながら腹式呼吸をする。
走りながら、へその下がゆるむようになったら少しずつ骨盤の可動性も上がってくる。
③腸腰筋のストレッチ
為末大さんによる以下の動画の前半部分で説明されている。
重要なのは、膝をしっかりロックすること。
硬い路面の上で膝が痛くて股関節にうまく体重を乗せられない場合、下にヨガマットなどを敷くことを勧める。
④脊柱起立筋のストレッチ
反り腰は脊柱起立筋の慢性的な収縮によっても生じる。
腸腰筋同様、縮みっぱなしで固まっている可能性が高い。
以下の動画で紹介されているストレッチをやってみよう。
ポイントは、腰の力を脱力させ、意識的に骨盤を後傾させた状態でストレッチすることだ。
上手くストレッチできていると、痛気持ちいい感覚が出る。
最後に:「骨盤前傾神話」の正体
「世界トップランナーが速く走れるのは骨盤が前傾しているからだ」
陸上競技をやっている人なら一度は耳にしたことがある話だと思う。
でも、これって本当なんだろうか。
今回の記事で説明してきたことを踏まえると、
骨盤が前傾するのはあくまで動きの中の話であって、
立っているだけでも骨盤が前傾しているというわけではない
というのが僕の見解だ。
ただ、トップランナーは股関節の可動域が広く、股関節伸展時には骨盤も大きく前傾することも事実だ。
つまり、
股関節伸展している方の脚だけ骨盤も前傾し、
股関節屈曲↔伸展を繰り返す中で、骨盤も
まっすぐ↔前傾
という動きを繰り返しているのだと思う。
(骨盤は本来左右で分離しているのでこのようなことが可能になる。トップランナーほど左右がばらばらに動かせる)
いわば、骨盤前傾神話の正体は、
動きの中で骨盤を大きく前傾させることができるから速く走れる
(普段は骨盤が前傾しているわけではないけれど、走るときは自在に骨盤を前傾させられる)
というものではないだろうか。。。
走っていないときでもつねに骨盤が前傾している、というわけではないはず。
参考文献
土屋真人、「姿勢と動きの『なぜ』がわかる本」(秀和システム)
アルファフライが万人受けしない理由を考えた
もくじ
- マラソンで好記録を生み出し続けるアルファフライ
- ヴェイパーフライと違って万人受けしない
- 万人受けしない理由
- スイートスポットを比較する
- そもそも論 : ヴェイパーフライが万人受けした理由は?
- 実は重要かもしれない機能
マラソンで好記録を生み出し続けるアルファフライ
大阪国際女子マラソンは、東京五輪代表の一山麻緒選手が2時間11分11秒の大会新記録で優勝した。
一山選手と言えば、ナイキの厚底シューズ「アルファフライ」を履いてマラソンを走ることでも知られる。
このシューズ、2019年にマラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ選手が履いてマラソン2時間切り(非公認)を達成したこともあり、センセーショナルに市場へ登場した。
昨年の東京マラソンでの大迫傑選手の日本新記録も、今回の一山選手による大会新記録も、このシューズによって樹立された。
ヴェイパーフライと違って万人受けしない
けれど、ヴェイパーフライが浸透したときと比較して、
このシューズに関していろいろ騒がれているようには見えない。
その理由の一つに、
「履きこなすことが難しい」
ということがあげられる。
実際に、今年の箱根駅伝では、アルファフライとヴェイパーフライの着用率はちょうど半々だったらしく、(以下記事参照)
学生トップレベルのランナーさえも、必ずしもアルファフライを好んで履いているわけではないという事実が、このシューズを履きこなすことの難しさを物語っている。
(二年連続で区間新の東京国際大学ヴィンセント選手もヴェイパーフライだった)
万人受けしない理由
では、具体的にどのような理由で、アルファフライは履きこなすのが難しいのだろうか。
以下の記事では、
「スイートスポット(最適箇所)が、ヴェイパーフライでは広く、アルファフライでは狭い」
という説明がされている。
スイートスポットとは、
「最も効率よくシューズから反発をもらえるような接地位置」
のことであると考えられる。
スイートスポットを比較する
アルファフライとヴェイパーフライについて、シューズの外観と上の記事の内容から、スイートスポットの位置を推定してみよう。
(ちなみに、筆者はアルファフライを履いたことがありません)
横から見た写真。
目につく両者の違いは、何といっても前足部である。
アルファフライには「エア」と呼ばれる空気層があるが、ヴェイパーフライにはそれがない。
これにより、アルファフライには中足部の手前に大きな段差がある。
したがって、必然的に「エア」の入った前足部での接地(フォアフット接地)が良いと考えられる。
一方、ヴェイパーフライの前半分は比較的フラットであるため、中足部側での接地(いわゆるミッドフット接地)にも対応しているように思われる。
もちろん、フォアフット接地であっても十分にカーボンプレートの恩恵を得られるようになっている。
次に、シューズの裏を見てみよう。
やや見にくいかもしれないが、アルファフライの前足部の真ん中には空洞がある。
空洞の位置では接地できないので、必然的に接地可能位置は狭くなる。
また、先述した通り、「エア」層が終わるところに段差があり、この付近での接地も難しい。
ヴェイパーフライは黒塗りされた前足部が平らで、広い範囲での接地が可能だ。
したがって、スイートスポットはこんな感じになりそうだ。
(大迫選手は「いつもは外で接地するけど、アルファフライのときはやや真ん中寄りに着く意識で走る」と述べているが、どの程度真ん中なのかは全くわからない)
学生トップランナーであってもミッドフット接地の選手はかなりの数いると思われる。
世界トップが軒並みフォアフット接地とはいえ、フォアフット接地でのフルマラソンやハーフマラソン完走には相当な脚力を要する。
安定してピッチを刻むミッドフット接地の方が疲れにくいということもあるので、この辺は一長一短だ。
そもそも論 : ヴェイパーフライが万人受けした理由は?
むしろ、「どうしてヴェイパーフライは万人受けしたのか?」という疑問を持つべきかもしれない。
これに対する僕なりの答えは、
「従来のセパレートソールとフラットソールの良いところを足し合わせたようなシューズだったから」
というものである。
どういうことか、順に説明する。
一般に、シューズのアウトソール(靴底のうち地面と直接触れる部分)には、
セパレートソールとフラットソール
の二種類が存在する。
フラットソールがその名の通り真っ平なのに対し、
セパレートソールはソールが前後に分かれていて、中央部分はソールの代わりにシャンクと呼ばれる樹脂が入っている。
両者の特徴は、
- セパレートソールはフォアフット接地でシャンクによる反発を生かせれば速く走れる
- フラットソールは反発が弱いが、フォアフット走法でなくても使いやすい
というものである。
フラットソールでの走り方はごくシンプルだ。
ソールが平らで柔らかいので、足裏のどこで着いてもそのまま足裏全体が地面にベッタリ着く。
そのまま、重心移動に従って、ソールがぐにゃりと曲がりながら体を前へ押し出していく。
②のフェーズで足裏全体で地面を捉えるので、安定感に優れる反面、
接地時間が長くなり、地面からの反発をあまりもらえないという欠点もある。
一方、フォアフット接地の人は、以下のようなプロセスでセパレートソールの強みを生かせる。
①前足部接地。シャンクが入っていてソールが曲がらないので、前足部に引きずられてかかとが素早く降りる。
②かかとが地面に一瞬接触してからすぐに離れる
③かかとが離れ出すと、今度はかかとに引きずられて前足部が地面を押し出す
このような走りができると、
- シャンクによって接地時間が短くなる
- シャンクの反発力で地面を強く押し出せる
という利点がある。
一方、ミッドフット接地の場合、地面とソールが平行なのでシャンクはまったく生かされないし、
かかと接地に至っては前足部がシャンクで加速されて地面を太鼓のように叩く羽目になってしまう。
(もし接地音が気になるようだったらかかと接地を疑ってみるのもいい)
シャンクは中足部にしか入れられないため、フォアフット接地が不可欠という問題があった。
これを解決したのが、ナイキ厚底に採用されている
フルレングス(足裏全体を覆う長さ)のカーボンプレート
である。
カーボンプレートは炭素でできていて、この上なく硬い。
この硬い板を靴の内部に入れることで、
どこで接地してもそれなりに反発する
ようになった。
つまり、
反発が強いというセパレートソールの利点
と、
どこで接地してもそれなりに走れるというフラットソールの利点
の両方が盛り込まれているのだ。
それでいて軽くてクッション性も高い。速く走れるに決まっている。。。
実は重要かもしれない機能
ちなみに、「ヴェイパーフライだってスイートスポットは前足部寄りじゃないか!」という反論があるかもしれない。
もう一度ヴェイパーフライの写真を見てみよう。
アウトソールが完全には平らではなく、真ん中より少し後ろに隙間があることがお分かりだろうか。
すると、普段はミッドフット接地の人も、
足が地面に降りてくるときには、黒塗りされた前足部が先に地面に着くようになっている。
いわば半強制的にスイートスポットに誘導されるのだ。甘い誘惑
個人的には、意外とこの「スイートスポット誘導」機能が重要な役割を果たしているのではないか、と考えている。
各メーカーから発売され始めた厚底シューズも、
軽さ・カーボンプレート・クッション性
の三点セットを売りにしているが、どうも真っ平らなシューズが多い。
そうなると、まだまだナイキ一強が続くのだろうか…?
↓前回記事
「ヴェイパーフライじゃないとうまく走れない問題」について考えた
あけましておめでとうございます。。。
今年の箱根駅伝は見ごたえがあった。
復路を最初から最後までちゃんと見たのは何年ぶりだろう。。。
箱根駅伝も「厚底」一色
さて、やはり今年も注目されたのが、選手の履いていたシューズ。
以下の記事によると、どうやら今回は9割以上の選手が、NIKEのいわゆる「厚底」シューズを履いていたらしい。まさにNIKE一強。
これだけNIKEの厚底が普及し始めたのは、去年か一昨年くらいから、
厚底第三世代であるヴェイパーフライNEXT%が安定して供給されるようになった
ことが大きい。
第一世代、第二世代のヴェイパーフライは供給量が少なく、一般ランナーにとって入手は容易ではなかった。
(発売日当日に開店前から並ばなければ変えないような代物だった)
ところが、NEXT%は十分に市場に供給されるようになり、多くのランナーが履くようになった。
学生駅伝界でも、厚底シューズの優位性を認めざるを得なくなったのか、ほとんどのランナーがこれを履いて走るようになった。
かつて4連覇を達成した青山学院大学も、契約メーカーであるアディダスのシューズではなく、NIKEの厚底を履いて箱根を走っている。
さらには、設楽悠太選手のような「トラックでも厚底」が珍しくなくなり、
「むしろスパイクより記録が出る」として、トラック種目に好んで使用する選手も多くなっていた。
厚底との別れ
ところが、あまりに記録が出すぎるということで、このシューズを制限しようとする動きが始まった。
その結果、昨年12月より正式に、
WA規則第143条(TR5:シューズ)のルール改定がトラック種目へ全面適用となり、
厚底シューズがトラック種目で使用できなくなった。
(使用はできるが、公認記録として認められなくなった)
移行期であった11月までの期間では、まだ厚底での記録が公認となるうちに、厚底で走って自己記録を更新した選手も少なからずいた。
以下の記事では、
昨年11月に行われた学連10000記録挑戦会(厚底禁止)では自己記録更新率が低かったのに対して、
同日に行われた別の記録会では厚底使用者が次々に自己記録を更新したということである。
(10000挑戦会はギオンスタジアムが爆風だったとか、日差しが強かったとかの理由も大きいと思うけど。もう一つの記録会のコンディションを見ていないので何とも言えないところ)
そんなわけで、一旦はトラックでも従来のスパイクや薄底シューズに対して優位性を発揮した厚底シューズも、
トラックレースと別れを告げることになった。
厚底が忘れられないランナー
ところが、
厚底シューズであまりにも良いタイムが出るために、
従来のシューズでトラックを走っても良いタイムが出なくなってしまった
というランナーは、少なからずいるのではないかと思っている。
僕の周りでも、とある後輩が上記のような「厚底中毒」に陥っている。
彼は厚底と薄底で自己最高記録が30秒以上近く異なる。
ハーフマラソンではない。
5000mだ。
5000mでこれだけのタイム差が出るのは単に厚底が優れているから、ということだけでは説明できない。
いや、まあ、厚底は優れているんだけど、
なんというか、
彼の走りは明らかに厚底に適応しすぎてしまっているのだ。
けれど、この「厚底に適応している」とは具体的にどういう状況なのかよく説明できないので、本人もどうすればいいのかわからず途方に暮れているように見える(たぶん)。
そこで本記事では、彼の
「ヴェイパーフライじゃないとうまく走れない問題」
の原因について、僕なりに考えたことを書いてみる。
この問題の原因は、人によって異なるかもしれない。
だから、同じ問題を抱えていても違う原因でタイムが出ない人には役に立つかはわからない。
それでも、
少しでも多くの人がこの問題を解決し、トラックでも自己記録をどんどん伸ばしていけるようになれば、それほど嬉しいことはない。
極端な「厚底適応」の原因は?
前置きが長くなってしまったので、単刀直入に結論を言うと、
彼の場合、
「厚底を履いても骨盤の高さが変わっていない」
ことが、極端な「厚底適応」を生み出しているのではないかと考えられる。
以下の図は、接地時、地面についている脚について、骨盤から下を横から見た模式図である。
厚底を履くと、ソールの厚さ分、地面から高い位置に足の裏が来る。
この状態で、もし薄底を履いたときと骨盤の高さが変わらない場合、骨盤から足首までの高さは、厚底を履いた場合の方が低くなる。
したがって、膝の屈曲が深い状態で接地することになり、接地位置も骨盤よりやや前方に来る。
薄底では、骨盤の近くに接地することになる。
これによって、
股関節伸展時の筋出力
に差が出る。
どういうことか、順を追って説明していこう。
膝屈曲の深さと股関節伸展
一般に効率の良い走りとされているのは、
①骨盤の手前(重心の真下)に接地して、
②支持脚にしっかり体重を乗せ、
③支持脚の股関節を素早く伸展させて重心を前へ移動させる
というものだ。
そして、股関節伸展に大きな役割を果たしているのが、
お尻の筋肉のうち最も大きい大臀筋と、
腿の裏の筋肉であるハムストリング(以下ハム)、とりわけ大腿二頭筋
である。
世界トップレベルの中長距離選手は例外なく、これらの筋肉がよく発達している。
そして、この二つの筋肉には大きな違いがある。それは、
大臀筋は股関節だけをまたぐ単関節筋
であるのに対し、
ハムは股関節と膝関節をまたぐ複関節筋
であるというところだ。
この違いは何を生むのか。それは、
ハムは膝屈曲角によっても、筋肉の出力しやすさが変わる
というところだ。
さらに言えば、
ハムは膝が曲がっている方が力が入りやすい
という特徴がある。
(試しに、膝を伸ばしたままジャンプしてほしい。ハムに力は入るだろうか?)
ところが、ランニングにおいては、
ハムに力が入りやすいからといって膝を深く屈曲させて接地させると、
- 腰が落ち、股関節伸展で前に進む距離が短くなる(ストライドが小さくなる)
- 接地が骨盤の前方になり、地面からの抗力がブレーキになる
というジレンマがある。
ヴェイパーフライを履くと、この問題の影響が抑えられる。
つまり、
- 膝屈曲が深くても骨盤がそこまで落ちない
- ハムにしっかり力が入りやすくなり、ブレーキの影響によるマイナスを上回る推進力が得られる
ということになる。
このような走り方をする人は普通、厚底を履かないと腰が落ち、効率が悪くなって疲れやすくなる。
(僕はこのパターン)
一方、トップ選手は、股関節の機能がきわめて高い[1]ため、
- 膝屈曲角に関わらず使える大臀筋の筋力が高い
- 膝屈曲が浅くてもハムが十分に出力できる
という利点がある。
これにより、効率の良い動きと、大きな股関節伸展パワーで速く走ることができる。
厚底を履いたときはその分だけ腰が高くなり、より効率よく走ることができる。
さて、例の後輩の場合に戻ってみよう。
彼は本来、
- 膝屈曲が深く、前方に接地させないとうまくハムに力が入らない
- 大臀筋をうまく使えていない
という状態なので、薄底を履くと腰が落ちるはずだ。
それなのに、薄底を履いても骨盤の位置が変わっていない[2]。
(このことは、動画を見て確認してある)
これはおそらく、厚底を履いているときと履いていないときで、走り方を変えているからではないか、と思う。
(何か意図的に変えているのか、無意識に変わっているかはわからない)
なにしろ、本来膝屈曲が深くないと股関節伸展のパワーが十分に得られないのに、
薄底では膝屈曲が浅く、股関節伸展筋がうまく機能していない。
そのため、一見効率がいいように見えても、上手くスピードに乗ることができず、レースペースで走るとすぐに疲れてしまう。
(股関節伸展が小さくストライドが短くなった場合、スピードはピッチを上げて補うしかないからだ)
じゃあどうしたらいい?
もし僕が彼のような問題を抱えているなら、次のようなことに取り組むと思う。
(1) 厚底と薄底でピッチを比較する
もし僕なら、まず、ここまで書いてきた仮説が確かめるために、
厚底を履いたときとそうでないときで、ピッチが異なるか調べる
と思う。
薄底でタイムが出ないのは、ストライドが短くなりピッチが速くなって、心肺機能が追い付かなくなりペースダウンしてしまうからだと考えられる。
これを確かめる方法は、
厚底・薄底それぞれで走ったレース・スピード練習について、ピッチを比較する
ことだと思う。
ガーミンで計測されたデータなり、動画から算出するなりして、
薄底の方がピッチが速くなっている
のであれば、僕の仮説は正しい可能性がある。
(2) 厚底を履くのをやめる
対症療法的には、
「腰が落ちてもいいから走りやすい走り方で練習する」
というやり方もありかもしれない。
究極、トラックは捨ててロードに特化するのなら、厚底を履いてガンガン練習すればいいと思う。
けれど、もし僕なら、トラックでもタイムを出したいと考えるから、
一旦厚底を履くのをやめて、
厚底で過去に出したタイムを忘れて、
薄底で速く走れるための身体づくりからやり直す
と思う。
厚底といっても、ジョグに用いるシューズ(ペガサスなど)を履くのは何ら問題なくて、
むしろ距離を踏むときは、そうしたシューズを履いて走る。
そのかわり、トラックでの練習はすべて薄底でやる。
(3)支持脚に体重をしっかり乗せて股関節伸展できるようにするためのトレーニングをする
そして、おそらくこれが一番難しいのだけど、
手前に接地して地面の反力をうまくもらいつつ、しっかり股関節伸展できるようになるために、
股関節周りの筋肉や骨がうまく独立して動かせる状態を作り、
その状態で練習を積んで筋力をつけていく。
ここに関しては僕のように腰が落ちるタイプも同じアプローチが必要になる。
何をどのようにやるかについては、僕のなかで理論をはっきり作れていないので、あまり書くことができない。
とりあえず、僕が最近取り組んでいることは3つ。
①「接地前に反対脚をまたぎ越す」意識で脚を回転させる
走っているときは真下についているつもりでも、動画で見ると結構前の方でついていたので、
接地足を少し後ろに置いていき、接地前に遊脚が接地側の脚を追い越すイメージで接地するようにしてみたところ、
きちんと骨盤の手前に降りてくるようになった。
この「接地前に反対脚をまたぎ越す」意識は、駅伝強豪校の豊川工業高校でも指導されているらしく、案外見当違いではないのかな、と思っている。
(「誰も教えてくれなかったマラソンフォームの基本」(みやすのんき著)の39ページ参照。この本は以下の記事などに引用しています)
②股関節の可動性を高めるためのストレッチ
特に、ランニング動作と直結する片足立ちでのストレッチが有効であると考えている。
為末大さんの解説動画が非常にわかりやすいので載せておく。
注意点としては、動画でもある通り、「腰を入れる」こと。
これをするかどうかで股関節への効き方がまったく変わってしまう。
なお、動画では為末さんは前に進みながら動的ストレッチとして行っているが、慣れるまでは片足立ちでキープしたままの静的ストレッチでやった方がいいと思う。
また、片足立ちのエクササイズについては、高岡英夫さんの著書「キレッキレ股関節でパフォーマンスは上がる!」の120ページ以降に載っているものも効果的だと思い、取り組んでいる。
③仙腸関節の矯正
これは、僕自身が過去に仙腸関節の故障をして、そのリハビリをちゃんとやらずに脚がおかしくなったのを直すために取り組んでいるのだけれど、
仙腸関節は骨盤の可動性をつかさどる重要な関節なので、きちんと機能するに越したことはない。
酒井慎太郎氏のテニスボールを用いた矯正法が有名で、僕自身もこれに取り組んでいる。
過去に別のブログで記事を書いているので、以下を参照。
とりあえず現時点で思いつくことはこれくらい。
股関節については僕自身も課題がたくさんあるので、地道にがんばりたい。
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[1] 「機能が高い」というのは曖昧な表現で、正確には「股関節周りの組織分化が進んでいる」というのが正しい。上記の高岡英夫氏の著書を読めば、トップレベルの選手がいかに股関節を使いこなしているかについてわかると思う。
[2] 腰が落ちるのが普通だけどそうならないのは、意識的に腰の位置を保っているからだと考えている。どうも「斜め上へ跳ぶ」意識を持って走っているようで、上手く走れる人はこの意識を持っていても問題にならないと思うけれど、彼の場合はこの意識が地面から逃げる(支持脚に体重を乗せ切らないようにする)ように作用している気がしてならない。