東大を出ても必ずしも研究者として成功するとは限らない理由
もくじ
- 進路どうしよう問題
- 博士での研究がうまくいっていない理由
- 既存のテーマの焼き直しは得意だけれど…
- ペーパーテストで身につかない能力
- 二つの能力
- 研究者に課題発見能力が求められる理由
- 課題発見能力がないから活躍できないというわけではない
- 結論。
- 進路どうしよう
進路どうしよう問題
6月になり、後輩たちが就活終了宣言するのを聞くようになりました。
こうしてまた後輩が次々と社会人になっていく現実と向き合いつつ、ちゃんと博士号を取れるだろうかなんて少し自分の身を案じたりする今日この頃です。
先日、東大の某研究所が主催する博士人材向けのワークショップへ参加し、計算科学関連のテーマでのインターンシップへ応募する準備をしております。
一方で、これまで全く考えていなかったアカデミアへのキャリアも少しずつ考えるようになりました。
きっかけはアメリカの大学院で博士学生としてヨーロッパで研究している同期の話を聞いたこと、研究室の先輩がスペインでポスドク研究員になったことです。
海外ポスドクですが、まだ情報収集を始めたくらいでちゃんと吟味したわけではありません。
しかし、ずっと日本で暮らしてきた自分にとって、若いうちに海外で働く、生活する、海外で日本人でない人と交友関係を得るといった経験ができる選択肢は魅力的なものに感じます。
ポスドク助成金を得る(もしくは雇われる)ため、そして将来的にアカデミアでポストを得るためには、当然ながら人並み以上の業績が求められます。
恥ずかしい話、博士での研究はそこまでうまくいっているとはいえないので、まだポスドクになろうと決心できるだけの状況ではないです。
博士での研究がうまくいっていない理由
今の自分に決定的に足りないのは課題発見能力だと思っています。
一般に、研究室ではPI(研究室を運営するボスのこと。教授や准教授である場合が多い)の出す方針に従いつつ、学生は与えられた研究テーマに取り組みます。
博士課程学生は、修士までで培った知識や技術、経験を武器に、ある程度自力で課題を見つけ、それを解決していくことが求められます
。もちろん、PIはじめスタッフのサポートを受けることはできますが、究極的には自分の研究には自分で責任を取る意識が不可欠です。
修士時代は、M1に与えられたテーマが終わって以降、PIから自由に研究してよいと言われていました(悪く言えばあまり指導してもらえない状況でした)。
幸運なことに、自力で見つけたテーマでいくつか新たに論文化できるような成果を出せて、複数の賞をいただくこともできました。
ところが、博士進学後、なかなか研究がうまく進まなくなりました。
理由は簡単で、研究テーマがうまく見つけられなくなってしまったからです。
既存のテーマの焼き直しは得意だけれど…
修士まででうまくいってきたテーマは、先輩たちが築き上げてきた研究成果の上に成り立ったものでした。
先輩たちの仕事の続きを一段階勧めたり、既存の手法を少しだけ変えて新たな手法を作り、それまでになかった形での特性制御をする、などです。
既にあるものから一歩先に進む、いわば「既存のテーマの焼き直し」はそれなりに得意だということがわかりました。
一方で、(一見すると)何もないところからまったく新しい物事を見つけるといった類の研究は、これまでうまくいった経験がありません。
博士に入ってから一度、「面白い結果が出た」ということがあったときも、結局は先行研究の焼き直しになっていることがわかりました。
「天才を殺す凡人」(北野唯我)に出てくる3タイプで言えば、自分は「秀才」かもしれないけれど「天才」ではない、ということになります。
ペーパーテストで身につかない能力
自分のように、「秀才」かもしれないけど「天才」ではないタイプは、東大には多くいると考えています。
もちろん、東大が日本一の大学であり、入試を突破してきた東大生は誰もが優秀であることは確かです。
研究室や部活で他の学生と話しているときは、お互い東大生であることを意識して話すことはありません。
ときどき、みんな東大の入試を乗り越えているめちゃくちゃ優秀な人たちなんだよな、とふいに思い返すことがあり、不思議な気持ちになります。
しかし、優秀なら必ず、世間一般で言う「成功」をつかみ取れるのでしょうか。
東大を卒業した人が全員、大学教授になったり、ビジネスで大成したりするわけではありません。
その事実は、ペーパーテストの能力だけで成功できるわけではないことを雄弁に語っています。
運、人脈、コミュ力、行動力、体力など、様々な要素が成功には不可欠です。
しかし、ここで取り上げたいのは、
「一見、東大生なら誰でも持っているように見えて、実は持っていない人が多い」能力である、
課題発見能力です。
二つの能力
問題解決能力=与えられた問題を理解し、その解決方法を既存の知識や技術を元に考案する能力
課題発見能力=雑多に情報が存在する中で、重要度の高い問題を自分で見つけ出す(あるいは作り出す)能力
課題発見能力は、一見すると問題解決能力とそっくりな文字面をしています。
東大の難しい入試問題を解くことができた東大生は、高い課題発見能力も有しているのではないかと錯覚しやすいかもしれません。
しかし、他の大学と比べ高い知識運用能力や問題解決能力を必要とする東大のペーパーテストであっても、課題発見能力を測ることにはつながりません。
何故なら、従来の入試システムでは、出題者が与えた問題を解く以上、自分で問題を見つけることは求められていないからです。
東大も、こうしたシステムの問題点に気づいていたためか、後期試験を廃止し、「一芸採用」的な側面のある学校推薦型入試を導入しています。
ホームページを見るとわかるように、東大は高校生の段階で既に高い課題発見能力を持つ学生を求めていることがわかります。
東大入試はセンター試験を多科目で受験して高得点を取る必要があり、二次試験でもある程度まんべんなく得点できることが求められます。
したがって、一芸に優れ、高い課題発見能力を持ち、実社会でも活躍が期待される人材であっても、東大に入ることができないということは珍しくないのだと思います。
そして、アメリカなど、高校生までに行った独創的活動、研究活動を高く評価する海外の大学へ、そうした「一芸突破型」の学生が流出していくことを防ぎたい、日本で活躍する人材を育てたいという意図があるのでしょう。
(もちろん、数学オリンピックや物理チャレンジなどで優秀な成績を収めた人が、勉強もできて普通に東大に入ることもよくあるので、必ずしも東大生≠天才というわけではないです)
研究者に課題発見能力が求められる理由
課題発見能力は、研究やビジネスの立ち上げには非常に重要となります。
研究で言えば、PIとなり、自分の研究室を運営するようになった研究者は、そこから革新的な研究成果を見つけられるような、あるいは研究資金を獲得できるような研究テーマを考え出すことが求められます。
ビジネスの立ち上げでは、日常に潜む「こういうところ不便だよね」というような問題を見つけ出す必要があります(もちろん、そのソリューションも同時に提案できる必要があります)。
その意味では、無事PIというポストを得ることができた研究者に求められる能力は、スタートアップ企業を成功させるような能力に似ています。
(だからこそ、研究室を立ち上げたあとに起業するPIも珍しくないのでしょう)
課題発見能力がないから活躍できないというわけではない
ここまで読んでくださった方で、
「あれ、自分はまさに課題発見能力がないタイプかもしれない」
と思った方もいるかもしれません。
しかし、課題発見能力がないから社会で活躍できないということはありません。
仕組みが確立している大企業や大組織であれば、そこで働く人には課題を見つける以前に、与えられたことを効率良く高いクオリティでこなしていくことの方が求められます。
その意味では、東大生のような「秀才」タイプは大いに活躍できると考えられますし、そうしたところでは課題発見能力がなくても問題なく働けると思います(実際に働いたことがないので、本当のことは知りません…)。
結論。
研究者として大成するためには、高い課題発見能力が必要です。
東大入試を突破できたからと言って、必ずしもその能力があるかはわかりません。
進路どうしよう
東大生の典型的な進路は、
のいずれかであることが多いように思います。
所属する組織の人数が少なく、組織に対する自分の影響力が大きいほど、課題発見能力も求められます。
アカデミアへ進む人は多いですが、それはスタートアップの立ち上げや事業を軌道に乗せるのと同じくらい高い課題発見能力が必要です。
初めからアカデミアに進むことしか考えていない東大生(または東大卒生)は、たいてい高校までにとてつもない業績を挙げていたり、尋常でない学問への情熱があるので、アカデミア向きだと思いますが、自分はそういうタイプではありません。
修士で運よくそこそこの業績を挙げられただけで、果たしてアカデミアへ飛び込んでいいのか…
(そもそも、それに見合う成果を博士課程で挙げられるか…)
実は大企業向きの典型的な東大生なんじゃないか…
そんなことを悩んで生活しています。