走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

【DC1面接免除採用】学振申請書の書き方

 博士学生みのん(@min0nmin0n)さんの、学振申請書の書き方に関する以下の記事が面白かった。

博士進学を目指す学生にとって、有益な情報であふれている。

ocoshite.me

申請書の作成は1月から始めて、第67版が最終版だったらしい。

ここまで徹底して取り組める方もそうはいないと思うけれど。。。

 

一般に、学振は

採用されている人が多い研究室にいるほど採用されやすい

傾向にある。

審査基準が偏っているとか、そういうことではない。

そのようになる理由は、

採用されやすい申請書の書き方について、研究室にノウハウが蓄積されているから

である。

一方で、周りに採用されている人が少ないと、上手い書き方を学ぶことができず、なかなか採用されないという話も耳にする。

ノウハウを知っているかどうかで、勝率が大きく変わってしまうのだ。

 

僕は学振DC1に面接免除採用内定となり、令和2年度(2020年度)より特別研究員となった。

(なお、本記事執筆は2020年10月)

修士時代、研究室に特別研究員の先輩が5人(うちDC1が3人)いたので、かなり恵まれた環境で申請書を作成することができた。

今回は、先輩たちの申請書に学び、実際に自分も採用を勝ち取ることができた経験に基づいて、僕が考える「採用されやすい申請書の書き方」について、まとめてみた。

 

個人の見解も多々あると思うので、参考程度に読んでいただければと思う。

 

もくじ

 

前提:DC1で業績は重要?

業績がある方が有利なのは当たり前だ。

しかし、業績がある=採択、というわけではない

お世話になった博士課程の先輩5人のうち、3人がDC1、あとの2人がDC2に採用されていた。しかし、内訳を見てみると、

  • DC1採用、申請時に第一著者論文あり:1人
  • DC1採用、申請時に第一著者論文なし:2人
  • DC2採用、DC1申請時に第一著者論文あり:2人

となっている。ちなみに、論文はいずれも査読あり英語論文、インパクトファクターは3~5くらいで、第一著者なので業績としては十分すぎる。

論文があれば必ず通るものではないし、論文がないからといって採択されない、というわけでもない。

DC1であれば論文を持っていない人の方が多数派だと思うので、申請書の比重は必然的に高くなる。 

申請書を書き始める前にやるべきこと2つ

実際に申請書を書き始める前に、次の2つのことをやるべきだ。 

①先人の申請書を入手する

ノウハウを学ぶ上で一番の教材になるのは、実際に採用を勝ち取った申請書にほかならない。

先述したように、僕の研究室の先輩は、学振特別研究員が5人いたので、採用された申請書を複数いただくことができた。

もしそういう研究室にいなければ、同じ専攻で学振に採用されている人に申請書をもらえないか頼んでみた方がいい。

それが無理な場合は、違う分野でもいいから申請書をもらえる人にもらっておいた方がいい。

あるいは、インターネットで公開されている申請書を入手するのも一案である。

xn--w8yz0bc56a.com

②申請書のストーリーラインについて、上司に同意を得ておく

申請書は、

研究の背景 → これまでの業績 → 現状の課題 → これからの研究計画

というストーリーに沿って書くことになる。

本文を書く前に、絵コンテなどで全体の概要をまとめておいた方がいいことは言うまでもない。文章を書きながら次のことを書くのは効率が悪いからだ。

そして、ここで言いたいのは、

あらかじめ作ったストーリーラインについて、本文を書く前に上司に合意を得る

ということである。

申請書は後々、上司(先輩や助教、教授など)に添削してもらうことになる。その際、

「そもそも、ストーリーおかしくない?」

という指摘をされてしまったら、それまでに一生懸命書いた文章はすべて水の泡。

端的に時間の無駄だ。

これを防ぐためには、本文を書く前に上司を打ち合わせをして、どのような流れで書くのかをはっきり決めるべきだ。

僕も、締め切りの1か月半前にストーリーラインを教授と打ち合わせしてから書き始めた。

そのおかげで、申請書の中身を大きく書き直すようなことにはならなかった。 

申請書を書く上での最重要ポイント3選

申請書を読む審査員も人の子だ。

客観的に判断しているつもりでも、どうしても認知バイアスを打ち消すことはできない。

したがって、申請書の見栄えが良ければ、その分採用されやすくなる可能性も高くなると考えられる。

実際、僕の研究室の先輩たちの申請書は決まって体裁が良かった。

そのような申請書を書くために、最も重要だと考える3つのポイントについて解説する。

①かっこいい図や写真を載せる

審査員の立場になって考えてみよう。

審査員は膨大な量の申請書を読まなければならない。したがって、全ての申請書について全力を持って対応することは不可能だ。

そのような中、審査員に「これいいかも?」と思わせ、実際に本文をしっかり読もうという気にさせるのは何か。

見やすくてかっこいい図である。

就活の面接で、その人を採用するかどうかは最初の10秒で決まってしまうと言われている。そして、残りの時間は、最初の10秒で得た印象を正当化するための根拠を作るだけにあるそうだ。

この話がどこまで本当なのかはさておき、第一印象というのはそれくらい大きなインパクトを与える。

そして、申請書における第一印象を決めるのが図にほかならない

図や画像は文字に比べて圧倒的に情報量が多い。

本文のエッセンスが図に凝縮されていれば、その分だけ本文をきちんと読んでもらえる可能性もぐっと高まる。

僕の考える「かっこいい図」とは、

  • 立体感や臨場感がある
  • 何をしているかが一目で理解できる

 というものだ。

イメージ図はなるべく立体感がある方がいいPowerpointでも3D書式を利用すればそれなりにかっこいい図を作ることができる。大学でライセンスが配布されているなら、CADを使うのも手だ。

複雑な図になってしまう場合は無理に3Dにしなくてもいいが、見栄えに気を遣った方がいい(最終的にはグレースケールで提出することに注意)。

実験の様子や装置、実験対象などを写真で載せるのもいい。

もちろん、グラフは立体化する必要はないので、プロットのサイズや軸ラベルがはっきりと見える大きさになっていればそれで十分。

NatureやScience及びその姉妹紙に掲載されている論文の図が参考になる。

②わかりやすい見出しをつける

それぞれの記入枠の配分などは自由に決められる分、読む人に「どの情報がどこにあるか」がすぐに見つけられるようにした方がいい

「研究の背景と問題点」「解決方策と研究目的」などといった見出しをつけながら、枠の中をさらに小分けにして各項目ごとにパラグラフを作っていくのが効果的だ。

その際、見出しは

  • [ ]や< >でくくる
  • 本文より少しだけ大きいフォントを使う(本文11pt見出し12ptにするのがおすすめ)
  • 太字にする

というようにして、本文よりも目立たせる。

同じ項目の中で小見出しをつける必要がある場合(業績や研究計画が複数ある場合)については、それぞれの小見出しに下線を引いて並列関係にあることがわかるようにする

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学振申請書(研究の背景、実績)の配分例。中身は見せられません…

③本文の中でも太字を活用する

本文中に現れるキーワードや重要性が高く強調したいところは太字を用いる。

下線や網掛けでも強調できるが、太字の方が文字そのものが視覚情報として入りやすいので、太字の方がいいと思う。

太字は、

太字しか読まなくても8割の内容は理解できる

ように使っていくべきである。

だからと言って、文字の8割を太字にすればいいという意味ではない。あまり太字だらけだと何が重要なのかかえってわからなくなってしまうので、2, 3割に抑える。

全体の2割の文章で全体の8割の内容を説明するにはどうすればいいか、何度も申請書を読み直して考える。

全体を200字要約してみて、要約に利用した部分を太字にする、というのも一案だ。 

本文が書けたら

申請書を書く前に、あらかじめ上司とストーリーラインを決めておけば、「何を書くか?」という点については後から大きく修正する必要がなくなる(ことが多い)。

ところが、内容が決まった後でも、それを「どのように書くか?」という点は何度も修正することになる。

よりわかりやすく、より有意義な研究に見えるように、何度も改良を重ねるのだ。

 

ここでは、

①書いた文章を音読して、読みにくいところ、わかりにくいところを直す

②上司(先輩や助教、教授)と文章の読み合わせをして、表現を直してもらう

という二つのプロセスを経ることをおすすめする。

①書いた文章を音読して、読みにくいところ、わかりにくいところを直す

書いた文章を読み直してみると、書いているときは気づかなかったミスが少なからずあることに気づく。

全体を通読してみると、「この項目はなくてもいいな」「ここはもう少し膨らませよう」など、配分の再調整をする必要に気づくこともある。

文章を読む際には、声に出して読んでみるのがいい。流し読みでは気が付かないような、読みにくいところやわかりにくいところを発見できる。

②上司(先輩や助教、教授)と文章の読み合わせをして、表現を直してもらう

上司に文章を直してもらう際、ただ文章を送って「添削お願いします」とするより、時間を取ってもらって読み合わせをした方がいい

読み合わせをするメリットは、

  • 上司が集中して文章の添削に取り組んでくれる
  • 表現の修正についてリアルタイムで議論や相談ができる
  • 上司の前で音読することで、表現に自信がないところ、違和感があるところを洗い出せる

などがあげられる。

自分ではいいと思っていても、上司に直してもらうと「こっちの方がいいな」となることが多い。

読み合わせは最低でも1~2時間くらいかかる。

お願いする場合には、スケジュールを確保してもらえるように早めにアポを取っておこう

そうすることで、疑似的な締め切りもできるため、早めに申請書を書き進めようという気にもなる。

もちろん、上司から「時間が取れないから、とりあえず書いて送っておいて」と言われたらそうするしかない。ちゃんと添削してくれることを祈りながら… 

自己PR欄に必ず盛り込むべき2つの要素

「研究者を志望する動機」などについて記述する最後のページは、いわゆる「自己PR欄」である。

このページが採用にどこまで大きく影響するのかはわからないが、審査員に好印象を持ってもらえることを書いていくに越したことはない。

それぞれの項目を書く上で、必ず盛り込むべき要素が二つある。

①ショートエピソード

ショートエピソードとは、「実際に経験したこと、取り組んできたことを短めのストーリーにしたもの」である。

就活の面接で、「あなたの長所は何ですか?」と質問されたとする。

そのとき、ただ「地道に物事をコツコツ続けていく粘り強さです」とだけ答えるよりも、

「地道に物事をコツコツ続けていく粘り強さです。大学の部活で陸上競技の長距離に取り組んできました。部活の練習に加え、毎朝欠かさず10km走ることを続けてきたおかげで、毎シーズン自己記録を更新できました。」

のような具体的なエピソードがあった方が、相手に与えられる納得感がはるかに大きい

したがって、研究者を目指す動機や自己の長所を書く上では、自分の書いたことを納得してもらえるようなエピソードも一緒に書くようにしよう

②社会貢献への強い意志

どんな仕事でも誰かの役に立っている。学術界の研究者でも同じだ。

一方で、大学の研究者の場合、自分の興味にまっすぐ向かっていった結果、研究者になりました、ということが少なからずある。

研究の内容がより学問的なものになればなるほど、「実際に社会にどのように役立つか」という視点をあまり持たずに研究をしている人もいるかもしれない(アインシュタイン相対性理論GPSに利用されているように、何十年も経って役に立つ点で学術研究にも価値があるのだけれど)。

しかし、そのような前提で、「自分が興味があるから」とだけ書き、「社会に貢献する」という視点が抜け落ちている申請書は、あまり印象が良くないと思う。

何故なら、税金から学振特別研究員へ給料を支払う以上、「少しでも社会へ還元できる可能性が高い人を採用したい」と審査側が考えるからだ。

したがって、自己PR欄では

自分が研究者として優れている

ことに加え、

研究で得たことを社会貢献へつなげたい

という内容を積極的に盛り込むべきである。

「自分の分野はかなり学問的だから、社会実装できるような応用にはつながらないよ」と感じる場合もあるかもしれない。

そのような場合は、

積極的な発信を行っていく

という書き方をするといいと思う。

何も、自分が発見したことが直接実装されるだけが社会貢献ではない。

学問の面白さ、研究の面白さ、そういったものを積極的に発信していくことで、次世代の学生が

「自分も研究者になりたい」

と思って勉強するようになったら、それだけでも大きな社会貢献であると言える。

 

おわりに

研究計画などの細かい内容については、分野によっても書き方が大きく異なると思われるため、今回は割愛した。

なるべく平易に書いてきたつもりだが、もし「ここがわからない」という場合や、質問がある場合には、コメントしていただければ、なるべくお答えする。

 

改めて述べるが、学振は「書き方を知っているかどうか」で採用されるかどうかが大きく左右される

申請書を書く前には入念に調査をし、申請書の作成は時間に余裕を持って取り組むようにすると、採用される可能性を高くすることができる。

 

(これから申請する予定がある人は、頑張ってください!)