オンライン学会は画期的
今週、4日間にわたって、応用物理学会の秋季学術講演会が開催された。
全ての発表はZoomを利用して行われた。
社会情勢を鑑み、やむを得ずオンライン学会になったわけだが、
いざ参加してみて、
「とても画期的」
だと感じた。
もはや、
学会は今後もずっとオンラインでよいのではないか
とさえ思ってしまったほどだ。
もくじ
オンライン学会の形式
今回僕が参加した応用物理学会は、以下のような形で行われた。
- 口頭発表のみ(ポスター発表なし)
- Zoomウェビナーを利用
- 発表者のPC画面を共有
- 発表者のカメラ映像が共有画面の上に小さく表示(カメラをオフにすることもできる)
- 質問はチャットに書き込まれたものを座長が読み上げる
大学のオンライン授業と大体同じようなものである。
オンライン学会の画期的な点
オンライン学会は、「好きなときに」「どこからでも」聴講することが可能である。
したがって、従来のオンサイト型学会と比較して、極めて生産性が高いと言える。
具体的には、次のような利点がある。
- より多くの学生が参加できる
- 忙しい教授や助教も参加しやすい
- 発表の合間を無駄にすることがなくなる
- 口頭発表の準備が楽になる(英語講演の場合)
より多くの学生が参加できる
本来、学会に参加するためには開催地へ移動し、場合によっては会場の近くに宿泊する必要がある。
そして、それには当然お金がかかる。
そのお金は出張費として研究室から拠出される(学振特別研究員は自分の科研費を使える)。
したがって、学会に参加したいなら、何かしら発表をする必要がある。
ところが、みんながみんな学会で発表できるだけの成果を出せているとは限らない。
そのため、学会に参加したくてもできないという学生がいるはずだ。
そうした学生も、オンライン学会なら参加できる。
オンラインなので出張費は一切かからない。
応用物理学会に至っては、聴講のみなら学生は参加費無料だったので、文字通り一銭もかけずに発表を聞くことができる。
したがって、従来の学会より多くの学生が参加できる。
忙しい教授や助教も参加しやすい
日々の業務に忙殺されている教授や助教も参加しやすい。
従来、学会に参加するために新幹線や飛行機で移動して、場合によっては前泊して、といった手間をかけてまで学会に参加するのは大変だ。
招待講演をするために遠距離移動して、でも次の日は別の用事があるからその日中に帰る、というようなこともある。
しかし、オンラインなら家からでも講演ができ、発表もピンポイントで気になるものだけ聴くことが可能だ。
したがって、忙しくてなかなか学会に参加できずにいた教授や助教にとっても、オンライン学会なら気軽に参加できる。
実際、こうした利点によって、今年の応用物理学会秋季学術講演会では、秋季としては史上最高となる8000人以上の参加があったようだ。
発表の合間を無駄にすることがなくなる
さらには、発表の合間の時間を無駄にすることがなくなるという利点がある。
口頭発表は普通、1人15分単位で連続して行われる。
その際、例えば、
「今聴いている講演の30分後に聴きたい講演がある」
「間にある2つの発表はあまり面白くなさそう」
というような場合は、
- ぼんやりとそれらの発表を聞く
- 内職をする
- 部屋から出て、広間などで作業をする
といった対応が考えられる。
当然、ぼんやりと聞いているだけでは時間の無駄だ。
かといって、堂々と内職するのも気が引ける。
作業するのにいちいち移動するのも面倒である。
ところが、オンライン学会であれば家や職場から聴いているのだから、何ら困ることはない。
さっさと画面を閉じて作業に移り、次に聴きたいときにまた戻ってくればいいだけだ。
したがって、学会を漫然と聞くことがなくなり、あらかじめ聴くと決めておいた発表以外の時間はいつも通りに仕事ができる。
なんなら、発表の合間に実験をすることもできるかもしれない。
あるいは、同じ日程で開催されている別の学会を聴くこともできる(日本物理学会は同日程だった)。これもオンラインならでは、である。
口頭発表の準備が楽になる(英語講演の場合)
口頭発表ではスライドを作るだけでなく、実際に発表するための練習をしなければならない。
原稿を覚えてすらすら話せるようになるまで何度も反復する必要がある。
(日本語発表なら原稿なしでも問題ないかもしれない)
原稿を見てはいけないというルールはないが、あまりにも堂々と原稿を見ているとみっともないし、興ざめだ。
実際に、原稿を確認しながら発表している人もいるものの、そうした発表はたどたどしくなるため、聴衆がすぐに興味を失う。
賞を狙うなら、プレゼンの技術に加え、聴衆を惹きつける発表をする必要がある。すらすら話せることは大前提だ。
一方、オンラインであればその必要はなくなる。
原稿を見ながら発表していても何ら差支えない。練習は原稿を数回音読しておくだけでよくなる。
人にもよるが、この「原稿を覚える」という作業がなくなるだけでかなりの時間と労力の節約になる。
オンサイト学会にあってオンライン学会にないもの
このように、オンライン学会は画期的なものである一方で、現地開催の学会にも価値がある。僕の考えられる範囲では、
- ポスター発表での議論
- 同じ分野の研究者とのコネクションづくり
- 日本や海外の様々な地域に行ける
というようなものがあげられる。
ポスター発表での議論
今回行われたオンライン学会にはポスター発表がなかった。
口頭講演だと質疑応答の時間は短く、オンラインだと発表後個人的に質問しに行くことができない。
一方で、ポスター発表ではある程度時間を気にせずディスカッションができる。
データを見せながら議論できるので生産性も高い。
「口頭講演するほどではないけれど、学会には出してもいいと思える結果がある」
「口頭講演の準備が面倒」
といった場合にポスター発表をチョイスする人がいる(修士課程の人に多い)。
そうした人は質問への受け答えもマニュアル的だ。
「聞かれたことに答えるだけ」というスタンスで、つつがなく発表を終わらせてしまいたい、という意識が垣間見える。
しかし本来、ポスター発表は
「まだ不完全だけれど発表して、いろいろな人の見解を伺いたい」
というようなモチベーションで行われるものだと思う。
実際、意欲的な学生やアカデミアに腰を据えている人に質問すると、答えに加えて「実はここはわかっていない」「こういう風に考えている」「こういうところは面白いのではないか」というような話をしてくれる。
そこからさらに質問したり、こちらの見解を述べたりすると議論が深まって面白い。
自分の意見が相手の研究を進めるきっかけになることがあるし、こちらもそうした議論から新しく研究テーマを見つけられるというようなこともある。
これは、オンライン学会にはない利点だと思う。
同じ分野の研究者とのコネクションづくり
アカデミアに進みたいと考えている学生にとっては、学会でコネクションを作るというのは非常に重要となる。
各大学の教授クラスの人たちにも顔を売り、実績をアピールしておくことで、後々ポスドクとして受け入れてもらえたり、助教として呼んでもらえることがある。
いわばアカデミアにおける「就活」である。
特に、日本の大学院で博士号を取ったあと、海外学振を利用して海外でポスドクとして研究したいと考えている人にとっては、国際学会でいかに海外の先生方と仲良くなっておくかが重要となる。
おそらく、今年開催される国際学会はすべてオンラインとなったはずだ。
これから海外へ出て研究しようと思っている人にとってはかなりの向かい風である。
また、そうした学生のみならず、既にアカデミアに所属している人にも学会でのコネクションづくりは重要となる。
仲良くなることで共同研究へ発展し、そこから新たな発見や研究の進展が生まれうるからだ。
日本や世界の様々な地域へ行ける
「遠距離移動しなくていい」
「宿泊しなくていい」
といったオンライン学会のメリットは、同時にデメリットとなりうる。
学会開催地へ行くことは一種の旅行のようなものであり、それをモチベーションに学会へ参加する研究者も少なからずいるからだ。
もちろん、出張費の財源は元をたどれば税金である以上、ただ旅行のように楽しむ(たとえば発表を聞かないであちこち遊びまわる)ようなことはあってはならない。
学会に積極的に参加するのは当然の義務だ。
しかし、学会のプログラムが終わった夕方以降、ご当地の美味しい食事を味わったり、近場に出かけることはできる。
去年秋の応用物理学会は北海道大学の札幌キャンパスで行われた。札幌には美味しい食べ物がたくさんある。僕は現地でスープカレーを3回食べたのに加え、ジンギスカン、札幌ラーメンといったご当地グルメを堪能した(海鮮が好きだったらもっと楽しめたと思う)。
同じようなことを考えていた人は結構いたらしく、発表者数は秋季としては史上最高、教室には人が入りきらず立ち見している人もいた。
みんな札幌に行きたかったのだ。
国際学会であれば、日頃は飛行機代が高くてなかなか行けない海外へ行くこともできる。
国際学会は国内学会よりも査読のハードルが高いことが多いものの、海外へ行けることをモチベーションにして研究を頑張れるという側面もある。
まとめ:結局どっちがいいのか
オンライン、オンサイトそれぞれの良さを書いてきた。
社会情勢が落ち着いたら、またすべての学会をもとのオンサイト形式に戻そうということになると思う。
しかし、オンライン学会には、社会情勢とは無関係に大きな利点がある。
だから、僕としてはオンライン学会も続いてほしいと思う。具体的には、
オンラインの回とオンサイトの回をつくる
というハイブリット型になってくれるとうれしい。
もしかしたら、オンサイトでなければならない事情があるのかもしれないけれど。。。