アルファフライが万人受けしない理由を考えた
もくじ
- マラソンで好記録を生み出し続けるアルファフライ
- ヴェイパーフライと違って万人受けしない
- 万人受けしない理由
- スイートスポットを比較する
- そもそも論 : ヴェイパーフライが万人受けした理由は?
- 実は重要かもしれない機能
マラソンで好記録を生み出し続けるアルファフライ
大阪国際女子マラソンは、東京五輪代表の一山麻緒選手が2時間11分11秒の大会新記録で優勝した。
一山選手と言えば、ナイキの厚底シューズ「アルファフライ」を履いてマラソンを走ることでも知られる。
このシューズ、2019年にマラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ選手が履いてマラソン2時間切り(非公認)を達成したこともあり、センセーショナルに市場へ登場した。
昨年の東京マラソンでの大迫傑選手の日本新記録も、今回の一山選手による大会新記録も、このシューズによって樹立された。
ヴェイパーフライと違って万人受けしない
けれど、ヴェイパーフライが浸透したときと比較して、
このシューズに関していろいろ騒がれているようには見えない。
その理由の一つに、
「履きこなすことが難しい」
ということがあげられる。
実際に、今年の箱根駅伝では、アルファフライとヴェイパーフライの着用率はちょうど半々だったらしく、(以下記事参照)
学生トップレベルのランナーさえも、必ずしもアルファフライを好んで履いているわけではないという事実が、このシューズを履きこなすことの難しさを物語っている。
(二年連続で区間新の東京国際大学ヴィンセント選手もヴェイパーフライだった)
万人受けしない理由
では、具体的にどのような理由で、アルファフライは履きこなすのが難しいのだろうか。
以下の記事では、
「スイートスポット(最適箇所)が、ヴェイパーフライでは広く、アルファフライでは狭い」
という説明がされている。
スイートスポットとは、
「最も効率よくシューズから反発をもらえるような接地位置」
のことであると考えられる。
スイートスポットを比較する
アルファフライとヴェイパーフライについて、シューズの外観と上の記事の内容から、スイートスポットの位置を推定してみよう。
(ちなみに、筆者はアルファフライを履いたことがありません)
横から見た写真。
目につく両者の違いは、何といっても前足部である。
アルファフライには「エア」と呼ばれる空気層があるが、ヴェイパーフライにはそれがない。
これにより、アルファフライには中足部の手前に大きな段差がある。
したがって、必然的に「エア」の入った前足部での接地(フォアフット接地)が良いと考えられる。
一方、ヴェイパーフライの前半分は比較的フラットであるため、中足部側での接地(いわゆるミッドフット接地)にも対応しているように思われる。
もちろん、フォアフット接地であっても十分にカーボンプレートの恩恵を得られるようになっている。
次に、シューズの裏を見てみよう。
やや見にくいかもしれないが、アルファフライの前足部の真ん中には空洞がある。
空洞の位置では接地できないので、必然的に接地可能位置は狭くなる。
また、先述した通り、「エア」層が終わるところに段差があり、この付近での接地も難しい。
ヴェイパーフライは黒塗りされた前足部が平らで、広い範囲での接地が可能だ。
したがって、スイートスポットはこんな感じになりそうだ。
(大迫選手は「いつもは外で接地するけど、アルファフライのときはやや真ん中寄りに着く意識で走る」と述べているが、どの程度真ん中なのかは全くわからない)
学生トップランナーであってもミッドフット接地の選手はかなりの数いると思われる。
世界トップが軒並みフォアフット接地とはいえ、フォアフット接地でのフルマラソンやハーフマラソン完走には相当な脚力を要する。
安定してピッチを刻むミッドフット接地の方が疲れにくいということもあるので、この辺は一長一短だ。
そもそも論 : ヴェイパーフライが万人受けした理由は?
むしろ、「どうしてヴェイパーフライは万人受けしたのか?」という疑問を持つべきかもしれない。
これに対する僕なりの答えは、
「従来のセパレートソールとフラットソールの良いところを足し合わせたようなシューズだったから」
というものである。
どういうことか、順に説明する。
一般に、シューズのアウトソール(靴底のうち地面と直接触れる部分)には、
セパレートソールとフラットソール
の二種類が存在する。
フラットソールがその名の通り真っ平なのに対し、
セパレートソールはソールが前後に分かれていて、中央部分はソールの代わりにシャンクと呼ばれる樹脂が入っている。
両者の特徴は、
- セパレートソールはフォアフット接地でシャンクによる反発を生かせれば速く走れる
- フラットソールは反発が弱いが、フォアフット走法でなくても使いやすい
というものである。
フラットソールでの走り方はごくシンプルだ。
ソールが平らで柔らかいので、足裏のどこで着いてもそのまま足裏全体が地面にベッタリ着く。
そのまま、重心移動に従って、ソールがぐにゃりと曲がりながら体を前へ押し出していく。
②のフェーズで足裏全体で地面を捉えるので、安定感に優れる反面、
接地時間が長くなり、地面からの反発をあまりもらえないという欠点もある。
一方、フォアフット接地の人は、以下のようなプロセスでセパレートソールの強みを生かせる。
①前足部接地。シャンクが入っていてソールが曲がらないので、前足部に引きずられてかかとが素早く降りる。
②かかとが地面に一瞬接触してからすぐに離れる
③かかとが離れ出すと、今度はかかとに引きずられて前足部が地面を押し出す
このような走りができると、
- シャンクによって接地時間が短くなる
- シャンクの反発力で地面を強く押し出せる
という利点がある。
一方、ミッドフット接地の場合、地面とソールが平行なのでシャンクはまったく生かされないし、
かかと接地に至っては前足部がシャンクで加速されて地面を太鼓のように叩く羽目になってしまう。
(もし接地音が気になるようだったらかかと接地を疑ってみるのもいい)
シャンクは中足部にしか入れられないため、フォアフット接地が不可欠という問題があった。
これを解決したのが、ナイキ厚底に採用されている
フルレングス(足裏全体を覆う長さ)のカーボンプレート
である。
カーボンプレートは炭素でできていて、この上なく硬い。
この硬い板を靴の内部に入れることで、
どこで接地してもそれなりに反発する
ようになった。
つまり、
反発が強いというセパレートソールの利点
と、
どこで接地してもそれなりに走れるというフラットソールの利点
の両方が盛り込まれているのだ。
それでいて軽くてクッション性も高い。速く走れるに決まっている。。。
実は重要かもしれない機能
ちなみに、「ヴェイパーフライだってスイートスポットは前足部寄りじゃないか!」という反論があるかもしれない。
もう一度ヴェイパーフライの写真を見てみよう。
アウトソールが完全には平らではなく、真ん中より少し後ろに隙間があることがお分かりだろうか。
すると、普段はミッドフット接地の人も、
足が地面に降りてくるときには、黒塗りされた前足部が先に地面に着くようになっている。
いわば半強制的にスイートスポットに誘導されるのだ。甘い誘惑
個人的には、意外とこの「スイートスポット誘導」機能が重要な役割を果たしているのではないか、と考えている。
各メーカーから発売され始めた厚底シューズも、
軽さ・カーボンプレート・クッション性
の三点セットを売りにしているが、どうも真っ平らなシューズが多い。
そうなると、まだまだナイキ一強が続くのだろうか…?
↓前回記事