自分を客観視するのは難しい
一通りシーズンが終わり、冬期練を経てそろそろシーズンインが見えてきた今日この頃。「来シーズンの目標・方針」を各自立てるのが通例になっている。
自分も(特に下級生の頃は)そうだったのだが、傍から見ると「さすがにこれはムリだろ…」みたいな目標を立てるタイプだった。下級生の場合は飛躍的に走力が向上することも珍しくないので、必ずしもマイナスに働くとは限らないけれど。
チーフになり、いわば「管理する」側になって他の部員の目標を目にすると、「さすがにこれは…」と感じることが少なからずあった。
目標を高く設定するか身の丈で設定するかについて正解はないが、自分としては「やる気が出る方」で設定するのがいいと思っている。したがって、部員一人ひとりと話をして、必要があれば目標をより機能するようなものに調節するといったこともしてきた。
また、同学年で(比較的意見を言いやすい場をつくって)目標や見通しに関して互いにフィードバックを与える機会も設けてきた。
自分がこのようなことをしてきたのは、「自分のことを客観的に見るのは難しい」という考えがあったからである。
同族嫌悪は「自分自身が無自覚に持っている嫌な部分に対する嫌悪感」
同族嫌悪という言葉がある。
平たく言えば「自分と似たものを嫌うこと」だ。
例えば、ぶりっ子の女性が(自分と同じような)ぶりっ子の女性は苦手、というようなものだ。
この同族嫌悪は、実は自分が同族嫌悪だと気づいていないまま生じていることが少なからずある。
上の例で言えば、自分もぶりっ子(だと思われる行動をしている)であるにもかかわらず、それに気づかずに「あの人ぶりっ子だから苦手」と感じるというようなものである。
どうもあの人は苦手だ、と感じることがあったら、その人の苦手なところを自分も持っていないか考えてみよう。ひょっとするとそれは同族嫌悪かもしれない。
同族嫌悪が生じる理由の一つに、「自分の嫌なところに対する嫌悪感」というものがある。(気づいていない場合もあるが)実は自分も持っている嫌な部分を自分の眼前で披露されている気分になるのだ。
自分を客観視するために
なんでこんな話をしたかというと、僕らは自分のことをとてもよく分かっているつもりでいて、実は全然わかっていないということを理解してもらうためだ。
一般に、人には「自分の外側の物事には悲観的だが、自分の将来には楽観的」という傾向があるようだ。
他人のことについては冷静な分析と判断ができる人でも、自分のことについてはどうしても期待を持ってしまう。
これは人類が生き抜くために有利な考え方だったのかもしれない。自分の将来を悲観的にしか考えられなかったら、精神面に支障をきたすかもしれないからだ。
「Think clearly」(ロルフ・ドベリ著、サンマーク出版)の中で筆者は、「期待は8割程度に割り引いて考える」 ということを述べている。
それでは、自分のことについてはなんでも悲観的に考えればよいのだろうか。
何が問題になるのか
僕はそうは思わない。
自分に期待するのは、人として健全なことだからだ。
期待することそのものは問題ではない。
問題になるのは、「期待に引きずられて現状認識が甘くなり、最適な行動をとれない」ということである。
例えば、
「○月に14分台を出す」という目標を掲げ、「○○の練習を△△のペースでできなければならない」と考え、無理のある設定の練習をしたり、
故障をして「もう治ったのでは」と期待し、リハビリをきちんとしないまま無理に練習に戻ってまた故障してしまったり、
というような場合である。
自分を客観視するために
言い換えれば、現状認識がきちんとできているのなら、自分に期待することは一向にかまわないというか、その方がいい。
「自分を客観視しよう」という言葉がいつの間にか「目標は低めに立てよう」と解釈されてしまって、その低めに立てたはずの目標さえ達成できなくなってしまうことも少なくない。
目標を達成することは大事だが、そもそも目標は自分が成長できるようにするために立てるものだ。したがって、「目標をどう立てるか」より、「立てた目標とどう向き合うか」の方がはるかに重要ではないだろうか。
話を戻すと、自分への期待は必ずしも低く見積もればよいというものではないが、同時に自分のことをあたかも他人のように客観的に分析することが肝心である。
最後に、自分を客観視するために何をすればいいか提案する。
一つ目は、冒頭にも述べたように「他者からフィードバックをもらう」ということである。
ただ、このやり方は、指導者がいなければ難しいし、周りの人も自分のことで精いっぱいということもあるだろう。
そこで二つ目の方法だが、「自分の思考を書き出す」というものだ。
自分の外側にある対象は客観視できる。これを利用すると、自分の頭の中で考えていることを可視化すれば、少なからず自分のことを客観視できるようになる。
具体的な話は参考図書を読んでみてほしいが、この手法は思考を整理し行動を改善していくうえで非常に強力であり、陸上のみならず人生におけるあらゆる局面で大いに役に立つものだと思う。