走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

僕たちが今やるべきこと(前編)

言うまでもなく、大変な状況が続いている。

僕自身は単なる学生で、感染症や経済に関してなんら説得力のある議論をここで披露できるだけの見識を持ち合わせていない。なので、情勢や政治に関して物申す、というようなことは特にしない。

その代わり、僕たちが今やるべきことについて、身の丈レベルで考えてみたので書いてみる。

  

このブログの読者のほとんどが自分と同じ学生で、

  • 家で自粛生活を送っていること
  • 経済面で困窮していないこと

を想定し、感染対策や経済的な話は除外して「何をするべきか」という話をしたい。

  

正しく恐れる

まずは、次の動画を見てほしい。日本赤十字社が制作したものだ。

www.youtube.com

 

恐怖は、人間にとって最も強力なdriving force(原動力)だ。

無痛症の人は早死にしやすい。痛みや恐怖は身の安全を守るため、必要不可欠な感覚である(「残酷すぎる成功法則」エリック・パーカー)。

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http://www.asukashinsha.co.jp/bookinfo/9784864105750.php

一方、過剰な恐怖は正常な判断を阻害し、不合理な行動や他者への攻撃へつながる。

特に、ウイルスは目に見えないだけあって、恐怖が伝播しやすい。

kabaneri.com

甲鉄城のカバネリ物語終盤、目に見えないウイルスへの恐怖から人々が無差別に殺し合いを始めてしまう。各種サブスクリプションサービスで視聴できます

 

恐怖に支配されず、正しく恐れるためには、データをきちんと得て分析することが肝要である。

データを正しく見ることの重要性については、「ファクトフルネス」(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ローランド)にわかりやすくまとめられている。名著なので、まだ読んでいない人には強く勧める。

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https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/19/P89600/


shop.nikkeibp.co.jp

 

以前に紹介した「自分のアタマで考えよう」(ちきりん)にも、データを基にどのように考えるか、についてわかりやすく書かれている。

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https://www.diamond.co.jp/book/9784478017036.html

日本赤十字社の動画にも出てくるが、恐怖は「○○が悪い」「○○のせいだ」というような犯人捜しにもつながっていく。

「ファクトフルネス」によれば、誰かのせいにするのは人間の本能である。そして、犯人を「見つけた」ら、あとはその人(あるいは政府などの団体など)を非難することに終始し、考えることをやめてしまうのだという。

しかし、現実はそう単純ではない。事象に対する原因が一つしかない、ということはほとんどない。

巷でささやかれる陰謀論もこの類だと思う。裏で誰かが糸を引いて現象をコントロールしていて、人々はそれに気づかないまま翻弄され、糸を引く者の思い通りに操られている、というような考え方だ。

実際、今回の件についても、諸外国を中心にいまだに「ウイルスは嘘だ」「政府や世界はパンデミックをでっちあげて人々から搾取することを正当している」という考えを持ってデモや暴動に参加している人が後を絶たない。彼らの考えが100%間違っているなどというつもりはないが、いくら何でも大げさではなかろうか。

裏で人々をコントロールしようとしている人は少なからずいると思うし、彼らは自分の都合のいいように事態をコントロールしようとしていることはあってもおかしくない。

しかし、全ての物事が誰かの思い通りになるということは考えにくい。個人の影響力はそこまで大きくないし、人間にはどうにもならない物事も自然界にはたくさんある。ウイルスは人工的に作ることは可能かもしれないが、人類の知見が及ばないレベルで自然発生する可能性だって否定できないだろう。

それなのに、陰謀論を全面的に信じてしまうのは何故だろうか。あるいは、何かに責任を求めてしまうのは何故だろうか。理由は二つあると思う。

一つ目は、ここまで書いてきた「犯人捜し本能」だ。

そしてもう一つには、「人間は一貫したストーリーに魅力と説得力を感じる」ということがある。

何か一つのものに責任を求めることで、その人の脳内では一つのストーリーが出来上がる。矛盾がなく、現実がそのストーリーに沿ってすべて説明できるように感じる。そのような状態を人間の脳は心地よく感じる。

しかし、現実というのはもっと複雑で、矛盾に満ち溢れていて、偶然の積み重ねで出来上がっている。そこに特定の誰かの意図が一方的に、彼らにとってのみ都合よく作用している、そのようなことは(たぶん)ない。

詳しい話は「人生は、運よりも実力よりも『勘違いさせる力』で決まっている」(ふろむだ)261ページ以降を参照してほしい。心理学を基にして、人間が自覚なく抱えている錯覚と、それに惑わされないための必読の書。第五章までは無料で読めるが、ぜひ一冊通して読んでみてほしい。

www.furomuda.com

 

"infodemic"に気をつける

"How to fight infodemic" by John Zarocostas 

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30461-X/fulltext

 

infodemicとはinformation(情報)とpandemic(パンデミック)を組み合わせた造語で、あふれかえる大量の情報によって、人々の正常な判断や行動が阻害されてしまうことを意味している。

情報といっても、その中には多くのデマや誤解、噂、取るに足らない情報が数え切れないほど存在している。SNSを筆頭に、インターネットで出回る情報のほとんどがevidence(証拠)なき推測、感想にすぎない。発信者に悪意がなかったとしても、不確かな情報を広げることで生じる社会への悪影響は計り知れない。

ニュースや新聞も同様だ。メディアが発信しているのはあくまでも「視聴者が興味を持つ」コンテンツにすぎない。メディアが不安をあおる傾向にあるのは、(後述するように)人は恐怖を抱く物事に強い関心を持つという性質があるからだ。

日本赤十字社の動画にもあったように、こうした情報をひっきりなしに入れることが、「恐怖に餌を与える」ということである。

 

「気をつける」とは、必ずしもすべての情報に対してevidenceを求めることではない。

まずは、情報を確かなものと不確かなものとに区別しよう。少なくとも、情報源がどこかを確認するようにしよう。

それから、情報を鵜呑みにするのではなく、情報を材料にして自分の頭で考えて行動しよう。情報の奴隷になってはいけない。

また、不確かな情報をむやみに発信しないようにしよう。特にSNSで何かを発言するときには注意が必要だ。自分の放った何気ない一言が、誰かの不利益になってしまうかもしれないのだから。

 

続きは次回。