走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

原因究明と対処

前回の記事では、問題解決のためにはまず問題そのものを徹底的に洗い出し、よく吟味する必要があることを述べた。本質的でない問題に取り組んで時間と労力を浪費するのは馬鹿馬鹿しいからだ。

 

取り組むべき問題がわかったら、次はその問題の背景にある原因を分析する必要がある。それから、その原因に対処するため具体的に何をすべきかをよく検討し、実際に取り組むというのが一連の流れである。

原因分析のプロセスにおいては、「この問題は○○が原因だから△△すればいいんだ!」などと短絡的に結論を出してはいけない。問題の根本的な原因というのは、表層的なことだけを考慮して見つけられるものではない。何層も剥がしていった先にようやく見つけられるものだ。

表面的な原因への対処では、その場しのぎで終わることや、新たに他の問題が発生することに繋がりかねない。

いかに本質的な問題に取り組んでいても、根本的な問題解決につながらない手法を採用していては、いつまで立っても現状が改善せず、ただの自己満足で終わってしまう。

 

そういうわけで、 

問題吟味の過程とオーバーラップするところはあるかもしれないが、問題の原因も十分吟味しなければならない。

逆に、原因が十分に吟味できている場合には、根本的な解決のためには何をすればいいかが自ずと見えてくることが少なくない。

「○○が原因だと思うけど、何をすれば解決すればわからない」という場合も、手法を検討するより原因を改めて考え直してみると 次に何をすればいいかわかることも多い。

 

そして、原因吟味の際に大事なのは「なぜか?」と問い続けて深堀りしていくことだ。企業などでよく言われる「なぜなぜ」なんとやら、である。

…とここまで書いてきて、非常に抽象的な話になってしまっているので、自分の経験も交えながら具体例を書いてみる。

あくまで僕がこう考えたというだけの話であり、これが正解とかそんなことを言うつもりは決してない。むしろ、「それ本当?」くらいの懐疑的な視点で読んでほしいし、この記事のせいで読者の皆さんが考えることをやめてしまわないよう祈りたい。

 

大学一年のころ、インターネットで得た情報を元に、とあるインソールを複数購入したことがある。足病医が開発した過回内矯正インソールというものだ。

彼らは、ランニング障害の殆どは足首が内側に過度に倒れ込んでしまう「過回内」という状況に起因すると主張している。そして、この症状はインソールによって矯正するしかないと謳っている。

僕にとって、この論調はかなり画期的なものに思えた。なぜなら、故障の原因は常に、故障する部位周辺の筋肉や腱の柔軟性の低さ、筋力の低さであると考えていたからだ。様々な故障に統一的な原因が存在する、という発想を持ったことがなかったのである。

具体的な説明は省くが、例えば

  • シンスプリント、脛骨疲労骨折(後脛骨筋)
  • 腸脛靭帯炎(大腿筋膜張筋)
  • 足底筋膜炎(足底筋群)
  • 鵞足炎(内転筋群)
  • 大腿骨疲労骨折(内転筋群)

 といった故障は、過回内である程度説明がついてしまう。ちなみに、()はその故障に関わりの深い筋肉である。

 

ところが、インソールで故障体質が改善することはなかった。むしろ、インソールのせいでいつもと違う部位を痛めたこともあった。当時はオーバートレーニング気味だったのでそちらも故障体質の原因だったが、練習をあまりしていないときでも故障することはあった。

インソールで故障が増えたとは言わないけれども、減ったとも感じなかった。何より、1年使っても過回内(と言われた足首の状態)はそこまで改善されているようには見えなかった。

 

学部生時代、僕は頻繁に故障をしていた。病院へ行くにしろ行かないにしろ、まずはそれがどんな故障かをインターネットで調べていた。インターネット上には医師や理学療法士をはじめとする多くの人が記事を載せていて、何が原因かすぐに分かるようになったように思えた。あるいは、病院で診断を受けたり、リハビリ指導を受けるとき、「これがこうだからこうしてね」と言われて納得していた

そして、インターネットに記載されている、あるいは教えられたリハビリトレーニングに一生懸命に取り組んできた。

果たして結果はどうだっただろうか。

 

リハビリトレーニングによって根本的な身体の問題が改善する人もいるのかもしれないのでこのようなことを言うのは憚られるが、今では僕は

こうしたトレーニングの効能にかなり懐疑的である。

そうした取り組みによって、「故障を頻繁にする」という問題の根本的な解決には至ることはなかったからだ。

 

では、どのような考えによって根本的な解決が図られるのだろうか。

思考に終わりはないけれど、現段階までの思考を整理してみると、

 

「何故故障をするのか?」

→過回内になっているから

「何故過回内になっているのか?」

→接地の際に膝が内側へ入り込むから

「何故膝が内側へ入り込むのか?」

→中臀筋が使えていないから

 

このあたりまではよく聞く話。でも、中臀筋が使えていないという問題はしばしば「中臀筋の筋力が低いから」と片付けられ、中臀筋のトレーニングを指導される。

中臀筋トレーニングの問題点、いやこうした「使えない筋肉を使えるようにするための筋力トレーニング」の問題点は、

使えない筋肉を鍛えようとしても使えずに、使える筋肉で代償動作をしてしまい、鍛えたい筋肉が一向に鍛えられないところにある。

効果を実感しないので当然長続きしない。

そんなわけで、さらに原因究明を続けた。

 

「何故中臀筋が使えていないのか?」

→内転筋が固まっていて股関節が内側へ引きずられるから

「何故内転筋が固まっているのか?」

→股関節が関節として機能せず、骨盤が腿と分離していないから

「何故股関節が関節として機能していないのか?」

→股関節周辺の筋肉が固まっていて、関節が繋がった一つの骨のように振る舞うから

 

ここまでは、ある程度前に辿り着いていた。

ところが、この問題を打開するための方法としては、股関節周辺の筋肉をほぐしたり、ダイナミックストレッチで股関節を動かしたり、といったものしか思いついていなかった。

これらの方法は対症療法であることに問題がある。

「ほぐす→柔らかくなる→走る→固まる→ほぐす→…」の繰り返し。ケアは大事とはいえ、根本的な改善には至っていない。

そんなわけでさらに掘り下げた。

 

「何故股関節周辺の筋肉が固まっているのか?」

→脳が股関節の位置を把握していないから

 

この発想はなかった。

 

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