走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

忙しいから偉い?

後輩とzoomで話をする機会があった。

いろいろと話をする中で、進学先についての相談を受けた。

いくつか行きたい学科の候補があり、その中にいわゆる「緩い」学科(以下、ホワイト学科*)も含まれていた。

後輩は、その学科の分野には興味があるものの、実際に進学するとなると周りから「楽をしている」と思われるのが嫌、というようなことを述べていた。

陸上部には忙しい学科へ進学している人が数多くいる。そんな中で、ホワイト学科へ所属することは「忙しくないことへの後ろめたさ」があるのかもしれない(純粋に興味がある学科を選択している人が多い結果とはいえ、陸上部は運動会の中では異質な集団だ)。

進路という選択において、部内の他者からの評価を気にしている状況だ。

この気持ちはよくわかる。僕自身、他人の評価を気にして生きてきたからだ。

だからこそ、後輩には「他人からの評価を気にして選択すると後悔する」というアドバイスをした。

 

*ホワイト学科

課題の量が多くない、課題や試験で要求されるレベルが高くないなどの理由で、単位を取得して卒業するのが比較的平易である学科のこと。

こうした学科には運動部の学生が多く進学する傾向にある。

そこで教えられている内容は決して簡単ではないが、勉強を最低限で切り抜けようという人が一定数いれば試験の難易度は下がり、したがって単位認定も易しくなる傾向にある。

 

承認欲求を捨てる」という考え方は、「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健)で紹介されたものだ。

www.diamond.co.jp

(一般論として、周りの評価を気にして生きることがどのように良くないのか、という話はここには書かない。「嫌われる勇気」は満足のいく人生を構築するために必読の一冊なので、まだ読んでいない人は是非読んで学んでみてほしい)

 

日本には、「忙しいことが美徳」であるかのような不可解な風潮がある。

今はどうか知らないけれど、自分が学部生のときの部内にも何となくそんな風潮があった(恥ずかしいことに、自分もそれに加担している側の人間だったと思う)。

競技者として、その人の評価は究極的にはその人の実力(=自己ベスト、大会での実績)で決まる。その人が忙しいかどうかは関係ない。

しかし、その人がいわゆるブラック学科に所属しているのに、周りよりも圧倒的な速度で記録を伸ばしていると、周りからの評価は「あんなに忙しそうにしているのに結果も出していてすごい」となる。忙しさがその人の評価を実力以上に高くするのである。

一方で、結果が出ていなくても、「忙しいから仕方ないよね」というように、周りからの評価が下がることはない。

逆の場合、つまりホワイト学科だったらどうか。

結果が出ていれば「時間があっていいなあ」、出ていなければ「なんで忙しくないのに結果が出ないのか(≒ちゃんと練習してるの?)」というように評価される。

つまり、周囲からの評価という観点からすると、結果を出していてもいなくても「忙しい方が得」ということになってしまう。

本来、競技者としての評価には関係ない「学科の忙しさ」によって、あたかもその人の競技者の能力が高いように見えてしまう。

学科の忙しさに応じて、試合でボーナスポイントが与えられるわけではないのに。 

 

陸上のことを第一に考えるなら、ホワイト学科へ行く方がいい。

陸上のために費やせる時間は多い方がいいに決まっている。

睡眠をしっかりとればパフォーマンスは上がる。

アルバイトで得たお金でジョグシューズをこまめに新調したり、食費に充てて十分に栄養を摂ったりすることで故障は減る。

もしホワイト学科へ行って、結果が出なかったらどうしようなんて考えるのはやめよう。

ブラック学科へ行けば結果が出なくても言い訳できると考えるのはやめよう。本来、忙しい人は忙しいなりのやり方を取るべきであって、忙しさは何の言い訳にもならない(だって、忙しいとわかっていてその学科を選んだのだから)。

言い訳を準備するのはやめよう。結果を出すための障壁にしかならない。

 

もちろん、陸上だけが大学生活ではない。

ホワイトであれブラックであれ、自分の行きたいところを選ぶべきだ。

そのときに、「周りの評価」という観点によって曇った選択をしないでほしい、という話。

 

 

僕自身はブラック学科を選択した人間だ。

(学科長は最初の説明会で「グレー」だと強調していた)

だから、「ホワイト学科へ行くべき」というのも説得力はない。 

当時は勉強したい分野で学科を決めたとは言え、周囲からの評価を全く気にしなかったと言えば嘘になる。

(高3時代は秋まで部活を続けながら成績も上の方にいたので「すごい!」と周りから言われていて気持ち良かったという経験がある。「ブラック学科でも結果を出してたらかっこいい」という気持ちは少なからずあったと思う)

 

せっかくなので、ブラック学科へ行ってうまく立ち回れずに記録が停滞した失敗談についても書いてみようと思う。次回。