走る前に頭の中を空にしておきたい

陸上(長距離)・博士課程での研究について。

練習に正解はない

Which is better?

僕の専攻は大学院入試が割とハードで、希望の研究室に入れるかどうかまでを考慮すると人気どころに入りたい場合にはかなりシビアな戦いになる。

僕の所属する研究室も数年前から人気になり、学部4年次に所属した人がそのまま上がれなくなってきた。4年生では希望制+くじ引きで配属を決めるが、大学院での配属は院試の成績だけで決まる。

研究室としても学生本人としても、4年生のときと同じ研究室に残れる方がいい。1年間の卒業研究で培った知識と経験をそのまま院の研究でも生かせるのは大きなアドバンテージである。

逆に、院から新しく研究を始めるとすると、博士課程へ進まない限り研究に打ち込めるのは実質1年半くらいになってしまう(最初の数ヶ月や就活で忙しい時期を除くとこれくらいだ)。腰を据えて研究をするにはやや短い。

こういう背景があって、僕のいる研究室では院試対策をどうするか毎年方針を決めている(らしい)。

ところで、僕の専攻の院試は筆記試験と口述試験があり、一般的な院試に比べて口述試験のウエイトがかなり大きいという噂がある(選考基準は開示されていないので本当のことはわからない)。そのため、「筆記と口述どちらに」という葛藤は常に存在するらしい。

3年前は筆記重視にしたらうまくいかなかったのでその次の年は口述に力を入れたらこれもうまくいかず、僕のときは筆記重視ということになって、なんとかうまくいった。

ところが、今年はまた口述重視という方針になりそうだ。去年筆記重視の方針でうまくいったのに、である。しかし、僕は筆記の方が大事だからうまくいったのか、たまたまうまくいったのかはわからない。だから、どちらをより重視するかということについては正解はないだろう(毎年方針を変えるのは大変だけど)。

 

High intensity v.s. High volume

万物においてこの「AがいいかBがいいか」という二項対立の構図の例は枚挙にいとまがない。

ここで取り上げる二項対立は、「低強度で量重視がいいか高強度で質重視がいいか」である。どちらが優れているだろう?

リディアードのように、800mの選手でさえも日常的に20km30kmといった距離の有気的トレーニングをこなした方が速くなれるという人もいるし、最近のスポーツ科学(?)界隈では高強度トレーニングの有効性が証明されたという話もある。どちらのやり方についても、それなりにうまくいっている人もいるし、かえってうまくいかなくなってしまう人もいるだろう。

実は、高強度トレーニングというやり方は特に目新しいものではない。Steve Magness氏のブログによれば、1940~50年代のアメリカにおける中長距離アスリートの練習の主流は高強度トレーニングであり、以降20年周期くらいで高強度と量重視は行ったりきたりしている(今は量重視が主流らしい)。

これについてはどちらが正解というものはない。やってみなければわからないし、やってみてもわからないということも多い。

ただ、知っておいた方がいいことは、それまでの「従来型」のやり方を批判しつつ、さも新しそうなやり方を絶対的なものであるかのように提唱する人の話は慎重に聞いた方がいいということだ(僕がブログで展開している理論のようなものもあまり鵜呑みにしない方がいい笑)。実は、そのやり方は大して新しいものでないかもしれない。

そのことを頭に入れた上で、興味があるならばまずやってみることも大事だと思う。試してみないとわからない。それが自分に合うかどうかは自分にしかわからない。

ついでに言っておくと、もし今のやり方に何かしら行き詰まりを感じていて、大きくやり方を変えるようなことがあるならば、必ず「移行期間」を設けた方がいい。身体はそう素早くは適応しない。量重視から高強度へ変えるなら、強度は徐々に上げた方がいい。量重視にするなら、少しずつ増やした方がいい。最低でも1ヶ月はかけた方がいいだろう。

 

「正解」はない

特に何も考えず、淡々と練習しているだけで実力が伸びているときは、「どう練習したらいいんだろう」とはあまり考えない。

ところが、行き詰まりを感じると、今の自分のやり方に自信が持てなくなる。同じことも続けていては何も変わらないかもしれないという不安から、新しい方法論にすがってしまう。

それがマイナーな変化(ウォーミングアップの前にウォーキングを入れる、など)であれば大して問題になることはないのだが、メジャーな変化(ポイント練習のメニューを大幅に変える、など)であれば身体への影響を考慮して慎重に変えていくべきだ。

行き詰まっているときというのは大抵焦っているので、この「慎重に」というのが結構難しいのだけれど。

どういう練習をしたら速くなれるかという永遠の問いに答えを出せそうな人は今のところいないように見える。「~~のような方針で練習をする」ということが、「実力が伸びる」という事象の必要条件とは限らないからだ(何らかの練習をすることは必要条件だとは思うが)。偶然ということもあるし、異なる方針でやっても同じくらい(もしくはそれ以上に)速くなることもありえる。

タイトルにつけた「練習に正解はない」という言葉は、僕が行き詰まって迷走していたときに先輩からいただいたものだ。正しいかどうかなんて誰にもわからない。だから、何をするかということよりも、自分で決めたことを信じて取り組むことが大事であるように思う。